、朝だよ〜」

「ん…あれ、狩沢さん……」

「おはよ。やっぱり設定通り朝はちょっと弱いのねぇ」





名前を呼ばれて目を覚ますと上機嫌の狩沢がの顔を覗き込んでいた

ぼやける目をこすりながら上体を起こし、はあくびを一つする

ふと自分の頭がやけに軽い事に気付き、昨日髪の毛を切って貰った事を思い出した

セミロングだったの髪の毛は肩につかない程度の軽めのミィディアムになり、何だか気持ちまで軽くなったように感じる

すっかり短くなった髪の毛を指で弄びながら、は狩沢に話し掛けた




「狩沢さんは元気だねぇ…」

「そりゃもうの熟睡姿や寝惚け姿の為だからね」

「そっか…。………って、まさか撮ったの!?」



やや時間を掛けた後にご機嫌な狩沢の言葉の意味を理解したは、眠気も飛んだ様子で狩沢に尋ねる



「ふっふっふ〜」



狩沢はそんなに遠めからチラリとデジカメの画像を見せて不敵に笑った



「昨日のサンタ、ナース、バニーに加えて寝てる姿もGET!!」

「それもうやってる事ストーカーだよ狩沢さん…」

「でもだって昨日散々私の髪の毛弄り倒したでしょー」

「だって私も狩沢さんのいつもと違う姿見たかったんだもん」

「だからお互い様だって」



そう言って笑うと、狩沢はキッチンへと向かいながらに声を掛けた



「さぁ、朝ご飯食べよ」

「はーい」

「そして朝ご飯が終わったらみくる仕様メイド服と制服(長門カーディガンVer.)を着て貰うからね!!」

「朝から!?」

「Yes朝から!!」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



12時半

集合時間より少し早めに全員が揃った露西亜寿司で小上がりの席に座った5人

狩沢とが並んで座り、その対面に男性3人組が座っているが、は疲れ切った様子で机に突っ伏している



「な、何か一晩でやつれたな…」

「おい狩沢、お前コイツに何したよ?」

「まさか昨日はゆるゆりでマリみてな秘密ドールズ的出来事があったとか…!?」



門田が心配そうにを眺め、渡草が狩沢に尋ね、遊馬崎があらぬ妄想で頬を染める中、狩沢はとても満足気な顔をしている



「しかも何故か髪の毛短くなってるし」



渡草が突っ伏しているの髪の毛をまじまじと眺めながら呟くと、は顔を上げた



「ぁ、これは昨日狩沢さんに切って貰ったの。何か私の噂が流れてるの見たからイメチェン的な感じで…」

「そうか…。にしても何でそんなに疲れた顔してるんだ?」

「いや、昨日も今朝も狩沢さんに脱がされては着せられ脱がされては着せられ挙句の果てに写真まで撮られて…」

「狩沢さん、1枚500円で買うっす」

「まいどー」

「狩沢」

「やだなドタチン冗談だってば」

「そんな事言って門田さんだって欲しいんじゃないっすか?のコス写真!!」

「っ馬鹿言え!!」

「ぇ、いらないのー?折角ドタチンの分も印刷して来たのにぃ」



そう言いながら数枚の写真を取り出し門田に見せる狩沢に、は慌てる



「ちょっ、何でそんな印刷してんの狩沢さん!?」

「そりゃぁの可愛さを独り占めしたらバチが当るだろうし…」

「意味解んないよ!!」

「ぁ、そうそう渡草っち、ルリちゃんコスもあるんだけど見たいー?」

「やめてーーー!!!!」

「いや、見たいかって言われても所詮コスプレだしなぁ…」

「それが結構イケてるんだってぇ〜、ほらっ」



狩沢はそう言って渡草に1枚の写真を見せる

そこには恥ずかしそうに微笑む聖辺ルリのライヴ衣装を身に着けたが映っていた



「よし、1枚買った」

「おい渡草お前まで何言ってんだ」

「いやいや、これはアリだって、お前も見てみろ」



まさかの購入宣言に慌てる門田に、渡草はそう言いながら写真を門田に見せる



「…………」

「な、イイだろ?」

「……あぁ…」

「同意するな!!買うな!!見るなぁぁぁぁ!!!!」



慌てて渡草から写真を奪い取ろうとするだったが、渡草との身長差にはなす術もない

渡草はひょいとをかわして写真をポケットにしまい込んでしまった

写真を奪えなかったは渡草を恨めしそうに見つめた後、狩沢に矛先を向ける



「っ狩沢さん!!」

「まぁまぁ良いじゃない、身内にしか渡さないから大丈夫よ。何ならこの写真を売って稼ぐって手も…」

「無いから!!絶対無いから!!」



相変わらずの雰囲気でわいわいと騒いでいると、サイモンが寿司を運んで来た



「ハァイ!!ニギリセットオマチ〜〜」



机の上に5人分の寿司を並べ、サイモンが小上がりの襖を閉めて出て行く



「とりあえず、食う時位は静かにしろよ?」

「はーい」

「はぁい」

「はいっす」

「へいへい」



門田のいつも通りの保護者的な台詞に4人は各々返事をしながら割り箸を手に取り食べ始めた



「ぁ、ごめん、醤油取って」

「はいどうぞ。…ぁ、渡草さんこのガリあげる」

「何でだよ」

「私ガリ嫌い」

「ワサビに加えてガリも駄目なんすねぇ」

「何か味が変なんだもん」

「変って事は無いだろう…、好き嫌いは良くないぞ」

「ぅー…、年に何回かチャレンジしてるけど無理なもんは無理なんだもん」

「駄目だよドタチン。そんな子供舌なが萌えなんだから」

「だからドタチンって言うなって」



和やかな雰囲気で時間が過ぎ、すっかりお皿が空になった頃が改まって話を切り出した



「あの、門田さん、一昨日の事なんだけどね」

「ん?」

「ほら、初めて会った日にちゃんと考えとけって言ってたでしょ?」

「あぁ、今後についてか」

「うん。あれね、昨日狩沢さんの家で色々考えたんだけど…」



少し言い難そうな様子のを、門田、渡草、遊馬崎が見守り、やがては3人に告げる



「私ね、もうあっちの世界には帰らなくて良いかなって思ってるの」



真っ直ぐに門田の目を見て言い切ったを、男性3人組は昨日の狩沢と同じ様に少し驚いた表情で見つめる



「帰らないって…、一生こっちの世界に居るって事かよ?」

「うん」

「それはもし帰れる可能性があったとしてもか?」

「うん…」

「つまりはこっちの世界を謳歌して最終的に自分とゴールインって事っすね?」

「うん…って違う。それは違う」

「冗談っす」

「ちゃかすな遊馬崎、話が反れるだろう」



遊馬崎を窘めた門田は腕を組んで暫く何かを考えた後、ゆっくりとした動作で首を横に振った



「俺は反対だ」

「ぇ…どうして?」

「此処は本来お前が居るべき世界じゃないんだろ?それならもし帰れるのに帰らないのはお前の為にならない」

「………」

「それにの家族や友達はどうなる?今まで関わって来た人を全て捨てる気なのか?」

「で、でも…」

「大体俺達の知ってる"そっちの世界"はこっちの世界とは余りにも違い過ぎるし危険も多い…」

「だって…、だって折角こっちに来れたのに……」



門田の意見を聞いては項垂れる

すると静かに話を聞いていた狩沢が門田に向かって声を掛けた



「でもさ、今のままじゃ帰れるかどうかなんて解らないんだから、とりあえず色々保留にしておけばいいじゃない」

「そうっすよ、もし帰る方法が解ったらその時に考えれば問題無いっす」



狩沢の言葉の後に遊馬崎も頷きながら追撃する



「今はが帰りたいって思ったって帰る方法なんて誰も知らないでしょ?」

「それはそうだが…」

「だったらまずはがこちらの世界に暫く滞在出来るように場所とかお金とかの工面をする方が建設的っす!!」

「狩沢さん、遊馬崎くん…」

「確かに、お前達の言う事も一理ある」



珍しくまともな狩沢と遊馬崎の意見に、門田は組んでいた腕を解いてお茶を飲むとに向かって話し掛けた



「まぁ原因は兎も角帰る方法が解らない事にはどうしようも無いからな…。方法が見つかるまでは俺達で面倒見てやる」

「………?」

「何で疑問顔なんだ?」

「ぇ、いや…、面倒見るって……私、別にそんなつもりじゃ…」



門田から発せられた意外な言葉には慌てるが、門田は呆れたようにを諭す



「そんなつもりじゃ無いって、この世界の人間じゃないお前がどうやって仕事に就いたり家を借りたりするんだ?」

「…それは……」

「こちらの世界で一生を過ごすって事は、一生過ごせるような土台を作らなきゃいけないって事だ
その土台に必要な金を稼ぐ方法も、家を借る為の身分証も保証人も今のお前には無いんだぞ」

「…………」

「まぁこの池袋には不法入国者も多く存在するが…、まさかカズターノ達みたいに廃ホテルに住み着くなんて出来ないだろ?」



非情な現実を突きつけられて、どんどん項垂れて行く

狩沢や遊馬崎はそんなを心配しつつ、門田の意見の方が正しい事は解るので何も言えずに見守るしかない



「だから、お前がこの世界に残りたいと思うなら少なくとも誰かに迷惑や苦労を掛ける事になるって事を自覚しろ」

「ごめん…なさい……」

「全く……。お前が最初に会ったのが俺達で良かったな」

「ぇ…?」

「渡草も狩沢も遊馬崎も、そして俺も…、お前を助ける事を別に迷惑とも苦労とも思わないからな」



門田がそう言うと、と門田の会話を見守っていた渡草、狩沢、遊馬崎の3人は一斉に頷いた

はそんな3人と門田を見回した後、小さな声で尋ねる



「何で…、何でそんなに優しくしてくれるの……?」



のそんな問いに4人はそれぞれ顔を見合わせた後、それぞれの言葉で答えた



「そりゃぁ私は元々の大ファンだし、実際こうして会ってみて凄く良い子だって解ったし、嫌がる理由なんか何も無いもの」

「自分は綾瀬様派だったんすけど、実物のに会って狩沢さんの言う萌えが良〜く理解出来たんで、今は完璧派っす!!」

「俺は未だにお前が違う世界から来たなんて信じられないけど、まぁ悪い奴じゃなさそうだからな。ルリちゃんの格好も似合うし…」

「俺も渡草と同じで未だ半信半疑だが…、知らない世界に一人で放り出された人間を放っておける程神経図太くないからな」



そんな4人の言葉を聞いて、は感激の余り隣に座っていた狩沢に抱きつきながら何度も何度もお礼を言った



「有難う…、もう本当に有難う!!有難う以外に言う事無いって位嬉しい…!!」

「あ〜〜ずるいっすよ狩沢さん!!」

「ふっふっふ。恨むなら自分の席を恨むんだね〜」

「その台詞は昨日も聞いたっすよ!!」

「こら、騒ぐと店に迷惑になるからその辺にしておけ」



門田はこれで何度目になるか解らない注意をため息混じりにすると、立ち上がって襖を開けた



「さて、あんまり長居するのも何だし、俺はちょっと行く所があるから一旦お開きだ」

「あいよ」

「ぁ、そう言えば私達もアクセルワールドの最新刊買いに行かなきゃなんだよね」

も一緒にどうっすか?」



小上がりから降りて靴を履きながら、は遊馬崎の誘いを少し考えた後に断る



「ぁ、ごめん。私ちょっと行きたい所あるんだ」

「そうなの?じゃぁもし何かあったら連絡してね…ってそうだそうだ、とアド交換してないじゃん」



狩沢は自分が言いかけた台詞での連絡先を知らない事を思い出し、慌てたように携帯を取り出した



「ぁ、そう言えばそうだったね」

「まぁ実際は折原臨也の携帯だからの直アドじゃないってのがちょっと微妙だけどー…」



そう言いながら赤外線通信を用いて狩沢とはアドレスの交換を済ます



「門田さん達も、アドレス交換して貰って良い?」

「もちろんっすよ!!」

「いいぜ」

「あぁ」



こうして4人分のアドレスが新たに追加された携帯を見ては嬉しそうに笑う



「何かあったらすぐ連絡しろよ」

「うん、大丈夫」

「場所さえ解ればすぐワゴンで迎えに行ってやっから」

「うん、ありがと」

「それじゃぁ私達そろそろ行くけど、合流したくなったらメール頂戴ね」

「うん、了解だよ」

「自撮り写メとか送ってくれても良いっすからね!!」

「うん…ってそれは却下。絶対却下」

「残念っす」



先程と同じやり取りを被せて来た遊馬崎に、は同じように突っ込みを入れる

そして5人揃って店の外に出た所で、遊馬崎にこっそりと声を掛けた



「ありがとね」

「何がっすか?」

「和ませようとしてくれたんでしょ?さっきも、今も」



の言葉に僅かに目を見開き驚いた顔をする遊馬崎に向かい、は微笑む



「向こうの世界で見てた"ゆまっち"もそうだったんだけど、空気読んで空気読めない振りするのって格好良いよね」

「…な……」

「ぁ、狩沢さーん、そう言えば昨日の写真なんだけどー」



はそれだけ伝えると、すぐに遊馬崎から離れ狩沢の方へと移動していった

駅までの道のりを歩きながら、ふと振り返った門田の目に入ったのはいつも通りに目を細めたまま赤くなる遊馬崎の姿だった



「どうしたんだ?顔赤いぞ」

「ぃぇ…何でもないっす……」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「さて、と…」



4人と別れたはアルバイトの情報を探す為に池袋の街をうろついていた

短期バイトや軽い物であれば、名前と住所だけの登録で済むものもある

住所は狩沢の住所を借りる事になるが、それでも無職状態よりはマシだろうとはサンシャイン通りの方に向かった

色々な店先や電柱にある貼り紙を見たり無料の求人雑誌を覗くが、中々良さそうな仕事が見つからない



「スイマセーン」

「はい?」

「ワタシ、探シテマース」



ふと背後から声を掛けられ振り返ると、そこには"さがしもの"と書かれた看板を持った金髪の女性が立っていた



「ぁ、…日本語探してる……」

「ソウデス!!アナタノ探シ物、教エテ下サーイ」



それはアニメでも見た、美しい日本語を探しているシリと言う女性で、の脳裏にふとアニメの展開が浮かんだ

先程狩沢は遊馬崎とアクセルワールドの新刊を買いに行くと話していたが、確かにアニメにもそんな回があった

新刊を買った後メイド喫茶に遊馬崎が携帯を忘れ、それを届ける為に狩沢がこのスケッチブックに遊馬崎へのメッセージを残す場面があったはずだ

更に言えばその回は"探し物"がテーマの回であり、セルティが首を探すのを中心に様々な人が様々な物を探していた気がする



「すいません、このスケッチブック見せて貰って良いですか?」

「OK!!」



がスケッチブックを見せてもらうと、そこには"羽島幽平"、"家手した猫"の2ページしか書かれておらず、次のページは空白だった



「"…この後に続いてた言葉って何だったっけ……"」

「ドウシマシタ?」

「あ、あぁ何でも無いです。えっと、じゃぁ書きますね」

「ハイ!!」



シリに心配そうに声を掛けられ、は慌ててスケッチブックに仕事!!と書き込む

そして書き終わったその文字を見て、アニメでも確か"家出した猫"の次のページの言葉は"仕事!!"だった事を思い出した



「ThankYou!!」

「"勢いで書いちゃったけど…、これって良かったのかな…"」

「ワタシ次ノ日本語探シマス、マタネ!!」

「ぁ、はい。さよなら」



が咄嗟に書いた文字について考えていると、シリは流暢な日本語でお礼を言い看板を片手にの元から去って行った

はシリの後ろ姿を見送りながら、あちらの世界とこちらの世界がリンクしている事について考える

自分がスケッチブックに記入したのは確かに現在心から探している物だ

しかしあちらの世界でアニメを見ていたその時、はこの世界には居なかったハズ

だとすれば自分がアニメを見ている時に"仕事"と記入したのは誰なんだろうか



「ぁ、違うか…」



そこまで考え、ふと思い出す

そもそもが今居るのはあちらの世界では既に放映が終わったアニメの世界だ

と言う事はが居るこの世界は、"あちらの世界とは異なった次元の過去"と言う事になる

だから先程スケッチブックに記入した文字は、紛れもなく自身のもので、それがあちらの世界にも反映されたと言う事なのだろう



「そうすると私がこの世界に来る事は決まっていたって事になるの…?」



いよいよ訳が解らなくなって来た事実をぶつぶつと反芻しながら、は再度サンシャイン通りを抜けてサンシャイン60の方へと向かって歩き出した



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



サンシャイン60の傍を通り過ぎ、更に東へと向かう

あちらの世界には無かったが、こちらの世界にはこの先に矢霧製薬があるはずだった

は歩きながら考える

あちらの世界とこちらの世界に何かしらの共通点がある事は確かだ

その共通点が何かは解らないが、それを探せば道が開けるようになるのではないか

逆に、その共通点さえ解らなければ自分はずっとこの世界に留まる事が出来るのでは無いだろうか

この考えが正しいかは誰にも解らない

それでも誰かに話を聞いてもらいたくて、は門田が一人で訪れているハズの矢霧製薬までやって来たのだった

工場とオフィスが一体になった矢霧製薬の外壁に沿って歩いていると、遠くの方に文庫本を読む門田を見つけた

門田は本から視線を外し、矢霧製薬を見上げると本をポケットに入れてこちらへと歩いてくる

その横を深刻な顔をした男が通り過ぎる

この男は後で全身に巻いた花火に火を付け矢霧製薬で暴れ、暴行に合う予定だ

しかし今彼を止めては話に矛盾が出てしまう

は結末を知りながらも黙って見守る事しか出来ない気まずさと後ろめたさに思わず両手を握りしめた



「…お前……」

「ぁ、門田さん…」



やがてが立っている前までやって来た門田は、を見下ろして驚いた顔を見せた



「俺が此処に居る事も知ってたんだな…」

「うん。あっちで映ってたから」

「で、どうした?わざわざこんな所まで来たって事は俺に何か話したい事があるんだろ?」

「うん…」

「まぁとりあえず場所を移動するか。此処じゃ目立ちすぎる」



こうして門田に促され、二人は近くにあった喫茶店へと移動した

互いに向き合って座り、はそれぞれジュースとコーヒーを飲みながら門田に説明する



「あのね、さっき気付いたんだけど、あっちに居た時に見たこっちの世界には既に私が介入してたの」

「ん?どう言う事だ?」

「さっきスケッチブックに探し物を書いてくれって言われて咄嗟に仕事って書いたんだけど、その書いた文字を私はあっちの世界でも見てるの」

「はぁ…」

「私がさっき"仕事!!"って書いた文字を、私はアニメの中の事としてあちらの世界でも見たんだよね。
だから私が此処に居るのは偶然じゃなくて、何らかの理由があっての事だと思うの」



の言葉は門田に向けられた物と言うよりは、自分で自分を納得させるる為の物のようだった

それに気付いた門田は黙っての話に耳を傾ける



「きっと私が元居た世界と、此処の世界は何処かで繋がりがあるんだと思う。
だからこそ私は此処に居て、帰る為にはその繋がりである共通点を見つけなきゃいけないんだと思うのね?
それでこの世界は私が居た世界から見ると過去なんだけど、過去に飛んでこの世界に介入した私の行動が
あちらの世界のアニメにも影響を与えているって言う事は、私はこの世界に多少は必要な存在なんだと思う」

「なるほど…、真相はどうあれ筋は通ってるように聞こえるな」

「でしょ?どうして私が轢かれて死んでまでこちらの世界に来たのかは解らないけど、きっと意味は何かしらあるんだと思うんだ…」



は門田にそう告げるとグラスのジュースを飲み干して机に置いた



「そう言う訳で、とりあえず暫くは二つの世界の共通点を探してみようと思うの」

「あぁ、今の所それ位しかする事無いもんな」

「うん。でも…」

「どうした?」

「ん…。結局暫くは狩沢さんに迷惑掛けちゃうなって思って…」



そう言いながらはため息をつく

二つの世界の共通点を見つけるのにどれだけ掛かるか解らない

ましてや共通点を見つけた所で元の世界に帰れるのかも解らない

それでもとにかく前に進むしか無い事は解っている

しかしその為には露西亜寿司で門田に言われた通り、その間の生活において狩沢に全面的に頼るしか無い



「仕事も結局見つからないし、いつまでも狩沢さんの所に居候する訳には行かないのに…」

「まぁその点は心配無いと思うが…、食費位は入れられた方が良いかもしれないな」



心配そうに呟くにフォローを入れながら、門田もコーヒーを飲み干す



「とりあえず、今後については俺も一緒に考えてやるし暫くは狩沢の世話になっといて良いと思うぞ」

「うん…、ありがと。門田さんて本当に頼れるよね、お父さんみたい」



門田の言葉に安心したのか、はようやく笑顔で答えた

そんなのお父さん発言に門田はため息交じりに呟く



「お父さんって…、せめて兄貴位にしてくれ」

「あはは。でも、皆のお兄さん役してるとたまには誰かに甘えたくなったりしない?」

「どうだろうな、別に兄役をしているつもりは無いからそんな事考えた事も無いが…」

「性格なんだね」

「まぁそうなんだろうな。…と、そろそろ出るか…。」



頷くように返事をした門田は、ふと店内の時計を見て席を立つ



「この後渡草と待ち合わせてるんだ、ついでにお前も乗って狩沢ん家まで送って貰え」

「はーい」



も返事をしながら立ち上がると、門田は机の上の伝票を手に会計へと歩いて行く



「ぁ、私も出すよ」



が慌てて財布を取り出そうとすると、門田は首を振って笑った



「俺には遠慮しなくていい」

「でも…」

「気にすんなって。まぁもしバイトが見つかったならそん時は奢って貰うからよ」



門田はそう言って二人分の会計を済ませてしまう



「じゃぁお言葉に甘えちゃうね。ご馳走様です」

「おう」



は門田の後に続きながら、門田の背中に向かってお礼を言う

門田がそれに答えながら扉を開くと、渡草のワゴンが既に駐車場に待機していた

二人に気付いた渡草が軽く手を上げる



「よぉ、も一緒だったんだな」

「あぁ、さっき合流してな、ちょっと話し込んでた」

「ごめんね渡草さん」

「いいっていいって。狩沢の家まで行けば良いんだろ?」



門田がいつも通りに助手席に乗り込み、は後部座席に乗り込む



「ぁ、それなんだけどね、今戻っても私狩沢さんの家の鍵持ってないから入れないと思うんだよね」

「そうか。んじゃぁまずは狩沢達拾うのが先だな」

「そうだな」



こうして3人は池袋方面に向かい、虎の穴前で踊っている2人と合流して狩沢の家まで向かった



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



やがて狩沢宅に到着し、と狩沢に続き、何故か遊馬崎もワゴンから降りる



「あれ?何でゆまっちも…」

「はいっス!!さっき狩沢さんと色々買って来たんで今夜は忙しいっすよ〜!!」

「買って来たって…、何を?」



遊馬崎の発言に首を傾げるに、狩沢が嬉々として説明する



「あぁそうそう。ゆまっちも撮影会に参加したいって言うから、今日はゆまっちの一押しコスをして貰おうかなって思ってさ〜」

「撮影会って…、まさか今日もやるの…!?」

「そりゃぁもちろんよ」



青褪めながら後ずさるの腕を、狩沢と遊馬崎が左右からがっちりと掴む



「大丈夫っすよ〜。ちゃんと夜は早めに切り上げますし」

「撮った画像も流出しないようにバッチリSDに保存しておくからさ」

「門田さん…!!」



狩沢と遊馬崎に捕らえられ、は助けを求めるようにワゴンの門田を見たが門田は悪戯に笑って首を横に振った



「まぁそれが宿泊料だと思って頑張るんだな」

「うぅ…」

「それじゃぁ俺達はもう行くぞ」

「はいはーい。ドタチン、渡草さんまたね〜」

「おやすみなさいっス」

「門田さんの馬鹿ー」



笑顔で手を振る狩沢と遊馬崎とは対照的に恨めしそうに門田を見つめる

そんなを見て門田は困ったように笑うと、狩沢と遊馬崎に向かって声を掛けた



「あんまり無理強いはするなよ」



そう言って狩沢と遊馬さきの返事を聞くと、渡草がワゴンを発車させる

3人は遠ざかるワゴンの後姿を見送り、やがてワゴンが見えなくなると狩沢を先頭に遊馬崎とは狩沢宅に向かった



「さーて今日は地獄少女行ってみようか!!」

「また制服!?」

「ぇ?嫌?」

「嫌も何も年齢的に…」

「レイヤーに年齢は関係無いっすよ!!」

「いや、私レイヤーじゃないし!!」



そう言って慌てるだったが、上機嫌の狩沢と遊馬崎には届かない



「ほらほら、早く入って入って」

「早くしないと夜が明けちゃうッスよ〜」



は二人の声を聞きながらがっくりと肩を落としたが、何だかんだで狩沢と遊馬崎のテンションに助けられている事を実感し苦笑した



「まぁ良いか…」





-Next Ep7-