「"で、池袋に行くとは言ったものの…、私が持ってるのはあっちの世界のお金だけなんだよね…"」



臨也の事務所を後にしたは、駅に向かう道を歩いていた

ふとこちらの世界のお金を持って居ない事を思い出し、どうやって池袋に戻れば良いのか考える



「"まさかお金借りる為に臨也のとこに戻る訳には行かないし…"」



先程の臨也の様子を思い出しながら、はため息を一つ吐く

そしてふと目に留まった自販機にとりあえず500円玉を入れてみると、購入ボタンのランプが点灯した



「ぁ、お金は普通に使えるんだ。良かったぁ…」



そう呟いてほっと胸を撫で下ろし、ついでにお茶を購入する



「"とは言え所持金は多くないからなぁ…"」



財布の中身を確認すると、小銭も合わせて2万円弱が入っていた

普段であれば充分な額だが、知らない世界で生活するには明らかに足りない

しかしがこの世界でお金を稼ぐとなると、住所不定、戸籍無しの状態ではまず雇って貰えない

は再度出掛かったため息をお茶と共に飲み込み、まずはとにかく池袋へ戻ろうと足を進めた



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



途中でコンビニに寄り、今後必要になりそうな物を一通り購入して駅に向かう

そして無事に池袋行きの電車に乗り、は臨也から手渡された携帯を取り出した

画面を見ると、そこには門田からの着信が数件分表示されている

そう言えば無理矢理臨也が会話を終わらせた後も、何回か着信を知らせるバイブ音が聞こえていた気がする

門田の事なのでさぞかし心配してくれているのだろうと、は池袋駅に到着するとすぐさま履歴から門田に電話を掛けた



か!?』

「ぁ、はい。あの、です」



1コールもしない内に電話に出た門田の勢いには少し圧倒される



『無事だったか…、折原に何かされてないか?』

「うん、大丈夫だよ。さっき臨也の事務所を出て、今もう池袋ついたところなんだ」

『そうか…。今折原も一緒なのか?』

「ううん、私一人だけど…」

『ん?じゃぁこの番号は…』

「ぁ、この携帯は臨也がくれたの。これは予備機だから持ってて良いって言ってくれて」

『そうだったのか。それじゃぁ兎に角今から駅まで迎えに行くから、東口に出てちょっと待ってろ』

「うん。ありがと門田さん」



相変わらずお父さんのような対応に、思わず笑ってしまう



『お前…、人が心配してたのに笑うんじゃない』

「ごめんごめん、それじゃ待ってるね」

『あぁ、それじゃぁな』



通話を終え、は言われた通りに東口へと向かう

元の世界とは多少違うものの、やはり駅の中は元の世界と同じく混雑していた



「"そう言えば今日って何曜日なんだろう?"」



出口付近で日時を確認しようと携帯を開くと、タイミング良くメールが一通届いた



「…何だこれ……?」



首を傾げながら本文を読むと、それはダラーズへの招待メールだった



「………おぉ…」



アニメで見た通り、誰にも縛られない自由なチームである旨とURLが書かれている

URLにアクセスしようかと思った所で自分を呼ぶ声が聞こえ、は顔を上げると声の方向を向いた



ーーー!!!!」

「無事っすかーーー!!!!」



声の方向を見ると狩沢と遊馬崎がこちらに走って来ていた

猛スピードでの元に辿り着いた二人は、そのままの勢いでに飛び付く



「おゎっと!!」

「馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿〜!!急に居なくなって心配したんだからね!?」

「しかも折原臨也に連れ去られたとか言われて更に心配したんすよ!?」

「ご、ごめんね二人とも…」

「ドタチンも電話変わってくれないしさぁ!!」

「自分ばっかりと話してずるいっす!!」

「お前達に変わると収集付かないだろ…」



わぁわぁと騒ぐ二人の後からやって来た門田は疲れきった表情で呟き、の頭にぽんと手を乗せた



「まぁ無事で何よりだ」

「ごめんね、心配掛けました」

「まぁ無事だったんだから良いけどさ!!」

「そうっすね!!無事だったんだから!!」

「…何で皆そんな私の安否を強調してるの?」



妙な様子の三人にが首を傾げて尋ねる

すると三人はそれぞれ顔を見合わせ、少しの沈黙の後狩沢が言い難そうに切り出した



「だって、が昨日折原臨也と一夜を共にしたって聞いたから…」

「はぁ!?」

「何か抱き付いたまま離れなくて、仕方ないからそのままベッドに連れ込んだって聞いたっす…」

「はぃ!?」

「それで昨日はそのまま一緒に寝て、今朝はお前に辱めを受けて襲われた、とか何とか言ってたな」

「誰が!?」

「「「折原臨也」」」



混乱するの質問に三人は口を揃えて答える



「な、何で?何が?一体どう言う事??」

「お前から連絡が来るちょっと前に折原から俺に電話が掛かって来てな」

「それでたまたま私とゆまっちも渡草っちのワゴンに乗っててねー」

「そこでの事を聞いたらそれらの出来事とかを色々教えてくれたんすよ」

「で、臨也はに散々弄ばれたって言ってたぞ」

「な、何だそれ…」



事実とは随分異なる情報が流れている事を知りが脱力していると、ふいにが手に持っていた携帯が音を立てた



「メール…?」



開いてみると、送り主は折原臨也となっている



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やぁ
池袋には無事着いた?

居心地が悪くなって俺の所に
戻って来る事になるかもしれ
ないけど、その時は遠慮なく
連絡くれれば迎えに行くよ。

くれぐれも他の奴に妙な事は
言わないようにね。

あぁそうそう
ダラーズの招待も送って
おいたから、気が向いたら
参加すると良いと思うよ。

それじゃぁまたね

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「アイツ…!!」



やや乱暴に携帯を閉じて握り締めているを見て、狩沢が首を傾げる



「どしたの?」

「狩沢さん、まさか臨也の言う事信じて無いよね!?」



は背後から声を掛ける狩沢の方に勢い良く振り返り、狩沢の両肩を掴んで尋ねた

狩沢はにがくがくと揺さぶられながら歯切れ悪く答える



「ぇ?い、いやぁ、もちろん全部は信じて無いけど…」

「全部も何も嘘だから!!全体的に嘘だから!!ぁ、臨也に抱きついて寝ちゃったのは本当らしいけど…」

「ぇえ!?やっぱそこ本当なんだ!?」

「違うの!!寝惚けてただけで決して故意じゃないの!!私覚えて無いし!!」



驚く狩沢に慌てて説明するが、その後ろで遊馬崎がうんうんと頷く



「いやぁ〜、寝惚けて抱き付くなんて正しく二次元的展開っすねぇ」

「うぅ…」

「ねー。まぁいいんじゃない?実際何も無かったならそんなに気にする事無いのに〜」



は狩沢の肩から手を下ろすと、両手で顔を覆って俯いた



「だって…、いくら今まで男の人に縁が無かったからってこの世界で急にはっちゃけてるみたいで何か恥ずかしい…」

「んー。て言うかさ、本当にって今まで誰とも付き合った事ないの?」



狩沢からそんな質問を受け、は顔を上げて半泣きで答える



「そんな事、わざわざ聞かなくても狩沢さん達も良く知ってるでしょ…?」

「まぁ確かに設定としてはそうなってたけどさ。でも実際可愛いのに浮いた話の一つも無いって言うのはねぇ」

「かっ、可愛いなんてそんな事は…」

「いやいや、はとっても可愛いっすよ。彼氏居ない歴=年齢なんて信じられないっす。ねぇ門田さん?」

「俺に振るな…。それよりそろそろ行くぞ。渡草を待たせっぱなしだからな」



遊馬崎の突然の問い掛けにため息交じりに答え、門田は元来た道へと歩き出す

3人も門田の後に続き、狩沢と遊馬崎は歩きながらいつもの調子でああだこうだと門田に向かって話し始めた



「駄目っすねぇ。此処で"君みたいな可愛い子に彼氏が居ないなんて嘘のようだ…"位言えないとモテないっすよ〜?」

「更に更にぃ。"もし良かったら俺を君の初めての男にしてくれないか?"って続けたら完璧!!だよね〜」

「なんだそりゃ」

「ぁ、確かにそんな台詞言われたらきゅんと来ちゃうねぇ。出来れば帽子取った状態で言って欲しい感じ!!」

「っお前らなぁ…」

ってドタチンの帽子にこだわるよね、何で何で?」

「ぇ、だって帽子無い方が目とか良く見えて格好良いし」

「"格好良い"ですってよ門田さん!!」

「良かったねドタチン!!」

「だからドタチンって呼ぶんじゃない!!」



まるで小学生の様なテンションで、4人は渡草の待つワゴンへと向かう

はこの雰囲気がとても心地良くて、少し歩幅を狭め3人の後姿を眺めながら幸せそうに笑った



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「渡草さん昨日ぶり〜」



路地裏に止めてあったワゴンに乗り込みながら、は渡草に声を掛ける

渡草も後ろを振り返りながら軽く片手を上げてそれに応え、先程の門田達と同じ様にに尋ねた



「おぅ、無事だったか?」

「ぇ、まさか渡草さんまで臨也の言う事信じてるの?」

「いや、まぁ鵜呑みにはしてないけどよ」



そう言いながらもやはり何処となく臨也の嘘を信じているような態度の渡草に、は昨日の出来事をもう一度最初から話し始めた



「と言う訳でね?無事も何も別に何も無かったの。本当の本当に特に何も無かったんだから」

「あんまり何度も言うと逆に嘘臭くなるぞ?」

「だって臨也ってある事無い事平気で吹聴しそうだから不安で…」

「まぁ俺達もアイツの言う事を真っ向から信じる気は無いから安心しろよ」



その横では狩沢と遊馬崎がいつも通りの会話をしている



「ねぇねぇゆまっち、"僕は友達が少ない"を"はがない"って略すのってどう思う?」

「そうっすねぇ、何でもかんでも4文字にすりゃ良いもんじゃないとは思いますけど、他に良い案は浮かばないっす」

「ぁ、何でもかんでもと言えば最近"俺の●●が△△で××だ"みたいなタイトルも増えたよねぇ」

「表紙や挿絵を萌え系にしとけばOKみたいな風潮は許せないっすよね。まぁ結局買うんすけど」



門田はまるで昔からの知り合いの様に溶け込んでいるを含め、いつも通りのワゴンの光景を眺めながら口の端に笑みを浮かべた



「おい、そろそろ行くぞ」



そう4人に向かって声を掛けると、が門田の方を向きながら首を傾げる



「今日は何処に行くの?」

「特に行き先は決めて無いが…、まぁ適当にその辺の見回りだな」

「見回り?」

「あぁ、此処最近池袋じゃ妙な事件が多いからな。こうやって時間がある時は車で適当に見て回ってるんだ」

「そうだったんだ…。どうりで色々な場面に遭遇する訳だよね。……ぁ」



は納得したように呟くと、思い出したように携帯を取り出した



「そうだそうだ忘れてた」

「何々?誰かにメール??」

「ううん、さっきダラーズの招待メールが来たから参加しようかなーって思ってさ」



狩沢にそう説明しながら、は携帯を操作する



「ハンドルネームかぁ…、何にしようかな」

のままで良さそうだけどね〜」

「もしくは『平凡少女』っすね」

「やだよそんなの…。折角二次元に来れたんだからもっと格好良い感じの名前にしたい!!」

「まぁ何でも良いが出発するからちゃんと後ろもシートベルトするんだぞ」

「「「はーい」」」

「それじゃ渡草、今日は高架下辺りで適当に頼む」

「りょーかい。そんじゃぁ行くぜ」



渡草の掛け声と共にワゴンは走り出し、相変わらず楽しげに騒ぐ3人の会話を背にしながら門田は帽子を被りなおした



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「駄目だ。全然良い案浮かばないや…」



携帯と睨めっこをしていたは、溜め息と共に呟く



「所詮私は平凡少女…」



ハンドルネームの登録欄に自分の名前をそのまま入力し、送信ボタンを押した後にはがっくりと肩を落とした



「まぁまぁ。それがの最大の特徴であり魅力なんだから良いじゃない」

「そんなの特徴って言わないし普通なんてつまんないよ…」

「でもは今自分が居た世界とは違う世界に居るんすよ?それって凄い事じゃないっすか」

「…そう、だよね。未だに実感沸かないんだけど、良く考えたら凄い事なんだよね…」



遊馬崎の言葉を聞き、は改めて自分の置かれている状況を実感する



「本当に今でも信じられないよね。でも…」

「でも?」

「ううん、何でもない。それより、ダラーズに入会したは良いけどこれってこの後は何すれば良いの?」



は言い掛けた言葉を途中で飲み込み、狩沢と遊馬崎に登録完了画面を見せて尋ねる



「あぁ、この後は特に何も無いよ、適当に掲示板に書き込んだり、チャットしたり、後はたま〜に管理人からメールが来る位かな」

「渡草さんなんかはダラーズの中で聖辺ルリファンクラブを結成して活動したりしてるっす」

「へぇ〜。何かチームって言うよりはサークルって感じだよね」

「そうかもね、カラーギャングとは全然違うから」

「中には無色透明のカラーギャングだって活発的に活動する人達もいるんすけどね」

「そう言う輩が他のチームにちょっかい出したりしないように見張るのが俺達の役目って訳だ」

「なるほど…」



狩沢と遊馬崎の言葉に続き、門田が前を向いたまま答えた

はダラーズ内の掲示板などを覗きながら納得したように頷き窓の外を眺めた



「ぁ…、そう言えば一つお願いがあったんだ」



流れる景色をぼんやり眺めていたは、ふいに何かを思い出したように切り出した



「どうした?」

「私お風呂に入りたいんだけど、後で何処か銭湯とか寄って貰えないかな?」

「風呂?」

「うん。実は昨日入ってないから何か気持ち悪くて…」



そう説明するに、狩沢が提案をする



「それならうちに来たら?」

「ぇ、いいの?」

「もちろん。最初はその予定だったじゃない。服も洗いたいだろうし…、だから今日はついでにうちに泊まっちゃいなよ」

「うん、有難う狩沢さん!!」

「それでいいよね?ドタチン」

「あぁ、狩沢の家なら折原の所より安心だしな」

「と言う訳で渡草っち、私の家まで送って貰って良い?」

「おぅ、いいぜ」

「狩沢さんずるいっす、が家にお泊りに来るなんてどんな夢物語っすか!!」

「ふっふっふ。恨むなら自分の性別を恨むんだね〜」



本気で羨ましがる遊馬崎に、狩沢は勝ち誇った顔でに抱き付く



「ぁ、でも私遊馬崎くんの家も行って見たいなぁ」



抱き付く狩沢を抱き返しながら答えるに、狩沢は首をぶんぶんと振って諭す



「駄目だよ、ゆまっちこう見えて二次元相手には超肉食系なんだから気をつけないと」

「酷いっすよ狩沢さん、に対してなら悪魔で執事のように接するっす!!」

「ぉ、黒執事だね」

「あれ、も知ってるんだ?」

「うん、こっちの世界でも連載してたよ」

「って事はもしかして他の作品も?」

「うん、バカテスとかはがないとかハルヒとか地獄少女とかそっちでやってるのは全部こっちでもやってたかな」

「でも『平凡少女』はやってないんっすよね?」

「そりゃぁね」



遊馬崎の質問にが答えると、遊馬崎は首を傾げた



「そっちの世界ではこっちの世界でやってるアニメ情報が流れてて、何でこっちの世界ではそっちの世界のアニメ情報は流れて来ないんすかねぇ?」

「言われてみれば『平凡少女』内でがアニメを見たり漫画を買ったりしてる場面て無いよねー」

「そうなの?じゃぁ私がアニメや漫画が好きって言う情報は知られて無いの?」

「うん。は極普通の女の子ってだけで、特殊な趣味とかは無いって…」

「でも実際のはこうしてアニメに詳しいオタク女子っすよね、それって何か不思議な感じが…」



遊馬崎と狩沢の言葉を聞き、も首を傾げる

確かに自分が今居る"こっちの世界"は、元居た世界で見ていた通りの世界であり狩沢も遊馬崎もアニメで見た通りのキャラクターをしている

それなのに自分自身は狩沢や遊馬崎が知っている自分と若干の差異があると言う

これは一体どう言う事なのか

何か意味があるのか、それとも単なる偶然なのか



「『平凡少女』内の私は無趣味で、実際の私はアニメ好き。デュラララ内の狩沢さん達はアニメが好きで、こっちでも実際にアニメ好き。
あっちの世界で流れていない場面があるようにこっちの世界でもたまたま私がアニメや漫画が好きだと解る部分が流されなかっただけ?
でも人物紹介にだって特殊な趣味は無いって書かれてるって事は作者の意図していない趣味を私が持ってる訳で…
そうすると実は私は狩沢さん達の知ってる『平凡少女』の主人公って訳じゃないのかな…
でもしずくとは確かに親友だし見た目もソックリなのにそんな事ってある…?」



は色々な仮説を立ててみるものの、結局答えが出せずに頭を抱えた

そんなの様子を見ていた狩沢と遊馬崎がに言う



「何か良く解らないけどのその癖もやっぱりアニメの設定そのまんまって感じだし、関係無いって事は無いと思うけど…」

「そうっすねぇ、まぁこちらの世界の作者のキャラ付けが甘かったって事も考えられるんじゃないっすか?」

「そんな事あるのかなぁ?」

「まぁ今此処で話し合っても答えは出ないと思うけどねー」

「…それもそうだよね……。何か今日は臨也のせいで朝から疲れたし、早くシャワー浴びて寝ちゃいたいや…」

「ぇ、何々!?朝から疲れるような事しちゃった訳!?!?」

「しかもシャワー浴びて寝たいって…、やっぱり何かあったんすか!?」

「だから違うっつーの!!!!」



相変わらず突飛な妄想でエキサイトする2人に必死で弁解する



「なんつーか狩沢と遊馬崎がもう1人増えたみたいだな」

「そうだな…」



そんな3人の会話を聞きながら笑う渡草と、諦め気味に同意する門田

5人を乗せた車は、やがて狩沢の家の近くに到着した



「おら、着いたぞ」

「渡草っちありがと〜」

「運転お疲れ様」



ワゴンを降りた狩沢とは渡草に向かってぺこりと頭を下げると、助手席から渡草越しに門田が声を掛ける



「明日の予定は何かあるか?」

「んー?私は特に無いかな」

「私も何も無いよ」

「解った。じゃぁ明日は13時に露西亜寿司に集合で良いな」

「おっけぃ」

「はーい」



門田の言葉に2人が返事をすると、窓から遊馬崎が顔を出した



「それじゃぁおやすみなさいっす」

「またな」

「しっかり休めよ」



遊馬崎の言葉に続き渡草、門田もそれぞれ狩沢とに声を掛ける



「また明日ね〜」

「3人とも今日はありがとね」



狩沢ともそれに答え片手を軽く上げながらそれぞれに挨拶を返し、3人を乗せたワゴンはそのまま駅の方面へと走り出した

ワゴンが小さくなるのを見届けて、狩沢はくるりとの方を向く



「そんじゃ行きましょうか」

「はーい」



は狩沢の後に続き、アパートの階段を昇った



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「おぉ…、これが狩沢さんの部屋…!!」

「ちょっと散らかってるけど気にしないでね」



狩沢の家は2K程のアパートで、想像していた通り漫画やフィギュアが所狭しと並べられていた

一角にはシルバーアクセサリーを作る為の道具も置かれている

はアニメでは見る事の無かった部屋の様子に感激したようで、きょろきょろと辺りを見渡している



「ぁ、これって狩沢さんが作ったやつ?」



机の上にいくつか置かれているシルバーのペンダントトップを指差して尋ねると、狩沢は帽子を脱ぎながら答えた



「そうだよー。まだ途中だけどね」

「凄いなぁ…、こんな細かい作業良く出来るねぇ」

「フィギュアの改造なんかの応用だと思えばちょろいもんよ」

「私はフィギュアには手出してないからなぁ」



そんな事を呟くに、狩沢はチェストから取り出したジャージを手渡す



「はい、これ今日のパジャマ代わりね」

「ぁ、有難う。何か本当にごめんね…?」

「気にしないで良いよ〜、友達が困ってたら助けるのが普通でしょ?」

「…友達……」



狩沢の何気ない言葉には一瞬動きを止める



「あれ?駄目だった?ちょっと慣れ慣れし過ぎた?」

「ううん、違う。ちょっと嬉し過ぎて言葉が出なかったの」



慌てる狩沢の言葉に首を左右に振り、は微笑む

狩沢もそんなにつられて笑った後、思い出したようにに切り出した



「とりあえずシャワー浴びちゃいなよ。タオルはこれ使って、ぁ、下着とかってどうする?」

「あぁ、それなら大丈夫。今日新宿から池袋に戻る途中にコンビにで歯ブラシセットとか下着だけは一応買っといたんだ」



はそう言いながら鞄の中から買った物を取り出す



「良かった、それじゃぁお風呂場はあっちのキッチンの横だから、どうぞごゆっくり」

「有難う、それじゃお借りします」



狩沢に促され、はジャージなど一式を手に風呂場へと向かった



-Next Ep5-