「ねぇ杏里」



「何ですか?」



「杏里は人を愛せないって言ってたよね」



「はい」



「じゃぁ、好きにはなれる?」



「…どう言う事ですか?」



「んー…。何て言うか、友達として好きって言う感情はあるのかなって事」



「友達として…」



「うん。つまり、私の事、好き?って聞きたかったの」



はそう問い掛けながら、杏里の顔をじっと見る



杏里もまたの顔を見つめ返しながら、穏やかに微笑んだ



「もちろん好きです。紀田くんも竜ヶ峰くんもさんも、とても大切だと思ってます」



そんな杏里の答えを聞いて、もにこりと笑う



「そっか、それなら良かった」



はそう言うと椅子から立ち上がり、教室の窓を開けた



まだ少し肌寒いものの、ひんやりとして気持ち良い風が教室を吹き抜ける



放課後の誰も居ない教室で、と杏里は正臣と帝人を待っていた



「どうして」



杏里がぽつりと呟く



「どうしてそんな事を聞くんですか?」



窓の外を眺めていたが杏里の方を振り返った



そのまま窓際に寄り掛かったの長い髪が、風に乗ってふわりと揺れる



「だって、私杏里が好きだもん。片思いなんて悲しいでしょ?」



可愛らしく小首を傾げながら、は杏里に同意を求める



杏里はのストレートな言葉にほんのりと頬を染めた



「もちろん正臣も帝人も大好き。3人に会えて本当に良かったなぁって思ってる」



は屈託の無い笑顔を浮かべながら、杏里に笑い掛ける



「それに罪歌の事だって、私は好きだよ」



「…罪歌も……ですか…?」



「だって、罪歌は私達を愛してくれてるんでしょ?」



「そうですね…、その方法には問題があるかもしれませんけど、でも確かに彼女は純粋に人間を愛しているだけなんだと思います」



「だったら、私は罪歌も好きだよ。杏里も罪歌も、私にとってはどっちも友達」



杏里と、その中に宿る罪歌



二人に向かっては話し掛ける



杏里はそんなの言葉を聞いて、珍しく心がざわつくのを感じた



いつも、全ては額縁の中の出来事で



杏里は常に額縁の外から第三者としてその光景を眺めているだけだった



しかし今、が杏里にくれた言葉は



第三者としてではなく、自分自身で受け止めなければいけないと



杏里も、杏里の中に宿る罪歌も



双方が同じ気持ちを抱いていた



「ありがとう…」



感謝の気持ちを伝える杏里の頬に、涙の跡が一筋伝う



「な、何で泣いてるの!?」



思い掛けない杏里の涙に、はうろたえながら杏里の傍に駆け寄る



杏里ははっとしたような表情をした後、自分の頬に手を当てて涙を拭うとに笑い掛けた



「すみません…、嬉しかったんです。私も、罪歌も」



「杏里…」



「特に罪歌は自分がどんなに愛しても愛される事は無かったから…」



杏里は自分の左手を右手で抑えながら呟く



「今さんに好きって言って貰えて、とっても嬉しかったみたいです」



「…そうなんだ……」



は杏里の左手を眺めながら頷くと、そっと自分の手を重ねた



「いつか杏里も罪歌も愛してくれる人が現れて、杏里自身も人を愛する日が来ると思うよ」



「そう…なんでしょうか…」



「きっとそうだよ。だって杏里みたいなエロ可愛い子、男が放っておく訳無いもん」



「そ、そんな事…」



正臣の造語を引用して、は杏里の左手を握ったままくすくすと笑う



杏里がその単語に反応して慌てていると、委員会を終えた正臣が戻って来た



「やぁやぁ待たせたな俺の子猫ちゃん達〜!!」



「ぁ、お帰り正臣」



「おかえりなさい」



「て言うか何々?二人して手なんか握り合っちゃって…!!もしかして今から禁断の世界に足を踏み入れる所だったとか!?俺も混ぜてっ!!」



両手を広げてアピールする正臣を見て、と杏里は顔を見合わせて笑う



そしては悪戯な笑みを浮かべると、杏里にぎゅっと抱きついて正臣を見た



「駄〜目。男子禁制の秘密の花園だから!!」



「何だとー!!じゃぁ今から俺は紀田正臣改め紀田正子ちゃんだ!!」



正臣がそう叫ぶと、丁度帝人が戻って来て仁王立ちで胸を張る正臣を訝しげに見て首を傾げた



「正臣何叫んでるの?」



「正臣じゃないわ!!正子と呼んで頂戴!!」



「ぇ、ごめん。何が何だかサッパリ解らない」



「良いからアナタも竜ヶ峰みかこになるのよ!!!!」



「ぇえ??」



「4人で秘密の花園に行きましょう!!」



「いや意味解んないし…」



くねくねとした動きで迫る正臣に、ぎょっとした顔で逃げる帝人



そんな2人を眺めて笑うと杏里



いつも通りのメンバー



いつも通りのやり取り



それはとても幸せないつもの光景



これが、園原杏里との日常―