「帝人はさ、名は体を表すって言葉、信じる?」



「何?急に」



「私は今まで信じてたんだけど…」



「けど?」



「帝人のせいで信じられなくなっちゃったよ」



「うゎ、失礼過ぎるよそれは」



学校からの帰り道



正臣や杏里と別れ、二人で歩いていた最中



が振ってきたのは、名前についての話題



「でも名前に美しいって入ってるのにそうでも無いとか、賢って入ってるのにそうでも無いとか、そんな人たくさん居るよね」



「うんうん、…って帝人もそれかなり失礼過ぎるよね」



は帝人の言葉を肯定するように頷いた後で、すかさず突っ込みを入れて笑う



「大体名前に特に意味の無い人だって居るし、名は体を現すなんてのは迷信だよ」



「まぁ、確かにそうかもね」



帝人の意見に賛同したに、帝人は首を傾げて尋ねる



「でも何で急にそんな話?」



「えぇとほら、姓名判断ってあるでしょ?」



「うん」



「あれが今うちのクラスの女子の間で流行ってるんだよね」



「…変な事ばかり流行る辺り、流石正臣と同じクラスだよね」



帝人はテンションの高い正臣を思い浮かべ、渇いた笑いを浮かべる



「まぁそんな訳で、今名前について思考を巡らすのがマイブームな訳ですよ」



「へぇ…」



帝人が相槌を打つと、は人差し指を立てて付け足すように続けた



「でもさ、女の子って結婚すると基本的には苗字が変わるでしょ?」



「そうだよね、変わっちゃうよね」



「うん。だからさ、苗字が変わったら名は体を表すとか姓名判断の結果とかその辺全部変わっちゃうのかなって思って…」



「なるほどね」



の説明を聞いて帝人は納得したように頷くと、腕を組んで頭を捻った



「実際のところどうなんだろうね」



「ね。例えば帝人が今から紀田や園原やになったりしたら、人生って変わっちゃうのかな」



「良く解らないけど…、でも絶対に変わらないとは言い切れないよね」



「だよね。もし私が竜ヶ峰だったら、私がダラーズの創始者だったのかもしれないよね」



そう言って笑い掛けるに、帝人もそうだねと笑い返す



「逆に僕が帝人だったら名前の事でからかわれる事も無かったんだろうなぁ」



「うんうん。ぁ、紀田帝人だったら帝人が今の正臣みたいになってたかも?」



「それは…、ちょっとやだな…」



「そんでもって私が園原だったら、杏里みたいにナイスバディだった可能性だってあるよね」



「ぇ、それはどうだろう…」



「ちょっと何よその反応」



「いやぁ、あはは…」



帝人が誤魔化すように笑うと、はふと足を止めて独り言のように呟いた



「帝人は…」



「ん?どうしたの?」



急に立ち止まったに合わせて帝人も立ち止まり、珍しく真面目な顔をしているを見つめる



「帝人は、もし杏里と私の体型が入れ替わってても…、やっぱり私じゃなくて杏里を好きになったのかな」



「ぇ…?」



杏里と、園原だったら、帝人はどっちを好きになったかな?」



「…いや、どっちって言われても……」



帝人はどう答えれば良いのか解らず言い淀む



いつもと雰囲気の違うに戸惑いながら、帝人がどう反応すれば良いのか散々迷っていると



次の瞬間、は何事も無かったかのようにけらけらと笑いだした



「いやぁ、帝人ってホントに純情で単純だよね」



「なっ…」



にやにやと笑いながら、は驚いた顔の帝人の肩をつつく



「帝人は杏里の身体のエロさと顔の可愛さが好きなんだもん、どっちが無くなっても困るよね〜?」



からかわれていた事に気付いた帝人は、顔を赤くしながら必死に抗議して見せる



「べっ、別に僕は園原さんの…か、身体目当てとかそんなんじゃ無いし…!!」



「ふぅん?でも顔は好みなんだよねぇ?」



「そ、そりゃぁ顔は…まぁ、好みじゃないって言えば嘘になるけど、…って言うかもうこれ名前関係無いじゃん!!」



「ぁ、バレた?」



帝人の突っ込みに対し、は笑ったままごめんごめんと謝る



「全く…。はそうやっていっつも僕の事からかうんだから」



「だって帝人が毎回引っかかるから面白くてさぁ」



「何かそれ、少し前に正臣にも言われた気がする…」



再び歩き出しながら、帝人はがっくりと肩を落とした



そんな帝人の横顔を見てが一瞬寂しげな顔をした事を、帝人は知らない



少女の想いは届く事無く



少年は想いに気付く事無く



毎日残酷な程穏やかな時が過ぎて行く



これが、竜ヶ峰帝人との日常―