6月のとある日の放課後

と帝人と杏里の3人は、1人でナンパへと繰り出してしまった正臣を放置してロッテリアにやって来ていた

注文を終えた3人が揃って席につくと、オレンジジュースを一口飲んだがふと思い出したように口を開く



「そう言えばさ、そろそろ正臣くんの誕生日だけどどうしよっか?」



そんなの言葉を聞き、の計らいで隣同士に座っていた帝人と杏里は互いに顔を見合わせた後で揃って首を傾げた



「あれ?もしかして2人とも正臣くんの誕生日知らない?」



予想外の反応にが尋ねると、杏里は小さく頷いた後で申し訳なさそうに呟いた



「はい、知らないです…」

「あらら。ぁ、でも杏里ちゃんは兎も角、帝人くんは知ってるでしょ?」

「へ?ぇっと、その…、大分前に聞いた様な気はするんだけど…」



の問いに帝人は気まずそうに笑って頭を掻く



「忘れたの?」

「ぅ…まぁ、えぇと…。うん…」

「そっかぁ。まぁ男同士で誕生日祝い合ったりってあんまりしないもんね」

「うん。正臣も僕の誕生日とか覚えてないんじゃないかなぁ」

「確かに、正臣くんなら女の子の誕生日は覚えてても男の誕生日は覚えてなさそうだよね」



帝人の言葉に同意して笑うに釣られ、杏里も控えめに微笑む



「でもさん良く正臣の誕生日なんて覚えてたね」

「ん?そりゃぁ2ヶ月前の入学式後の自己紹介の時に超アピールしてたからね」

「正臣らしい…」

「あの、紀田くんのお誕生日っていつなんでしょうか…」



苦笑する帝人の隣で杏里がおずおずと尋ねると、は鞄から携帯を取り出しカレンダーを開くと2人に向けた



「6月19日、木曜日だからバリバリの平日だね」

「そっか19日か…。木曜日なら委員会も無いし、放課後に集まれば良いんじゃないかな」

「そうですね」

「そだね。この前カラオケでケーキ持込出来る所見つけたから、そことかどうかな」

「うん、良いかも。さんはプレゼントってもう決めたの?」

「ううん、全然。正臣くんの好きそうなものとか全然解らないし…」



そう言って首を横に振るに帝人がにこりと笑って提案する



「だったら今度3人で買いに行こうよ」

「それ良いね、そうしようそうしよう。杏里ちゃんもそれで良い?」



帝人の提案には今度は首を大きく縦に振ると自分の前の席に座っている杏里へ顔を向けた



「はい、宜しくお願いします」



の問いに杏里が頷くと、は携帯を自分の方へと向ける



「じゃぁ決まりね。明日は委員会あるし明後日は私が塾だからー…」

「おいおーい、3人揃って置いて行くとか酷くない?俺抜きで談笑とかありえなくない?」



3人がそれぞれの予定を確認し合っていると、ナンパを終えたらしい正臣がの背後から現れた



「おぉ、おかえり正臣くん。その様子じゃまた悉く失敗だったみたいだね」

「失敗じゃないぞ。あくまでも多くの女性とコミュニケーションを取る事が目的だからな!!」

「本当めげないよね…。って言うか、僕達が置いて行ってるって言うより正臣が僕達を置いて行ってるんだからね」

「それは帝人達がしっかり援護射撃してくれないからだろー。杏里やは兎も角お前まで傍観してどーすんだ」



正臣に抗議する帝人にむしろ文句を付けながら、正臣はの目の前のコップをひょいと手に取る



「ちょっ、正臣くんそれ私のオレンジ!!」

「ん?一口くらい良いだろー。俺を置いていったお詫びって事でさ」



正臣は言うが早いかのオレンジジュースを一口煽り、にかっと笑ってへと戻した



「仕方ないなぁもう」



手渡されたグラスをトレイの上へと戻し苦笑するの横で、正臣は更に斜め前の杏里のトレイへと手を伸ばすとポテトを1本手に取る



「ついでに杏里からはポテトを1本貰う。何ならポッキーゲームならぬポテトゲームで口移ししてくれても良いぞ」

「ぇ?ぁ、あの…」

「おっと、杏里にはちょっと刺激が強過ぎたかな?仕方ないから今日の所は自分で食べるとしよう」



そう言ってもぐもぐと杏里から奪ったポテトを口にすると、続いて目の前に座っている帝人へと顔を向け正臣はにやりと笑った



「そして帝人からは…、その照り焼きバーガーを丸っと頂く!!」

「わぁっ!?」

「いやぁ、本当は俺は照り焼きよりチーズ派なんだけどなー。うん旨い旨い」

「ちょっと正臣〜!!」

「はっはっは!!返して欲しかったら次回のナンパでは帝人も積極的にトークに付き合うと約束して貰おうか!!」

「ぇえ!?」

「帝人くんも正臣くんもホント飽きないよねぇ」



いつも通りのやり取りを繰り広げ始めた帝人と正臣を眺めながら、は呆れた様に笑ってコップを手に取る

そして飲む為に口元へと近付けた所で、はふと動きを止めた



「………」

さん、どうかしましたか…?」

「へ?あぁいや、何でも無いよ。大丈夫大丈夫」



動きを止めたを不思議そうに眺めて尋ねる杏里の声に、は慌てて手にしたオレンジジュースを飲み干す



「何だ何だ?随分良い飲みっぷりだねぇお姉ちゃん」

「うゎ、正臣オヤジくさい」

「おいおい、こんなにもナウでヤングなフレッシュボーイに何て事言うんだ」

「40代だよね。それもう確実に40代だよね」

「まぁ俺の成熟した大人の魅力についてはさて置き。そろそろ暗いけど帰らなくて大丈夫か?」



正臣が外を指差しながら杏里とに尋ねると、外の様子を確認した杏里はこくりと頷いた



「ぁ、そうですね…。私はそろそろ帰らないと、です」

「おーっし、そんじゃぁ門限を守る良い子は帰るとしますか」



そう言って正臣が立ち上がったのを切欠に、3人もそれぞれ席を立ち4人は揃って店の外へと出た



「いつの間にか結構結構暗くなっちゃってたんだねぇ」

「まぁ入学した頃に比べると大分日も長くなってるけどな」

「そうだね。でも最近またカラーギャングがどうこうで結構物騒みたいだし早く帰った方が良いかもね」

「カラーギャング…ですか」



辺りを見回しながら呟く帝人の言葉に、杏里が不安そうな表情を浮かべる



「こら、帝人が変な事言うから杏里が怖がってるだろ」

「ぇっ、あぁごめんね園原さん!!だ、大丈夫だよ!!あくまでも噂だし早めに帰れば僕達には全然関係無いと思って言うか…!!」

「いえ、大丈夫です…」

「大丈夫じゃない!!此処は一つ責任を取ってお前が杏里を家まで送るしか無いな!!」

「ぇっ、ぼ、僕が!?」

「当然だろ。杏里を怖がらせたのはお前だからな」



突然の正臣の振りに慌てる帝人を余所に、正臣はびしっと人差し指を立てた



「良いか!?くれぐれも送り届けるだけでそれ以上余計な事はするんじゃないぞ!!」

「よ、余計な事って何だよ!?」

「そりゃまぁ送り狼さんがガオー!!みたいなアレだよアレ。まぁピュアでシャイな帝人には関係の無い話だろうけどナ」

「確かに、帝人くんなら誰かさんと違って安心だよね」



正臣が帝人に向けた言葉にがからかう様に呟くと、正臣は横目でを見るとにやりと笑っての肩を抱いた



「そんな事言って良いのかにゃー?お前を送るのはその安心出来ない誰かさんなんだぞ?」

「ぇ!? ゎ、私は良いよ。別に1人で帰れるし!!」

「何言ってんだ。女1人を夜道に放り出すなんて真似出来る訳ないだろ」



思い掛けない正臣に言葉にが慌てて首を振ると、正臣はそう言いながらこっそりとに耳打ちをする



「"お前が此処で遠慮したら杏里も帝人に送られるのを拒否るかもしれないだろ?"」

「"た、確かに…"」

「"良し。解ったらこのまま帰るぞ"」



正臣のそんな言葉には納得すると、正臣に肩を抱かれたまま杏里と帝人の方へと向き直った



「ま、正臣くんがそこまで言うなら送って貰おうかな!!」

「良ーし決まり!!それじゃぁ杏里を任せたぞ!!の事は俺に任せてくれ!!」

「ぁ、あの…」

「ちょっ、ちょっと正臣!?」

「んじゃーなー」

「帝人くん杏里ちゃんまた明日ね〜!!」



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「やれやれ、本当に世話の焼ける奴らだよな」



杏里と帝人を置き去りにする形で分かれたと正臣は、の住むマンションへと辿り着いた後も何となくマンションの前で雑談を交わしていた



「帝人くんって見るからに奥手だもんね」

「まぁ杏里の場合ただ押せば良いって訳じゃなさそうだから、案外丁度良いんじゃないか?」

「そうかも…。でも、正臣くんはそれで良いの?」

「何が?」

「ほら、正臣くんも杏里ちゃんの事狙ってるんじゃ無かったかなって…」



が控えめに尋ねると、正臣は自嘲気味に笑った後で首を左右に振った



「確かに杏里のエロ可愛さには惹かれる物がある…。でも俺は正直帝人と杏里ならお似合いだと思うぞ」

「そうなの?」

「あぁ。まぁそもそも俺は俺を求める女子全員の物だからな」

「全員の…ねぇ…」

「いやそこは何か突っ込んでくれよ」

「うーん…」



正臣のいつも通りの軽口を無視し、は目の前の正臣の顔をじっと見つめる



「こらこら。いくら俺が色男だからってそんなに熱く見つめられたら穴が開いちゃうだろ」



そう言ってに向かいウインクをして見せると、正臣はに顔を近付け優しく笑って首を傾げた



「それとも…、本当に俺に惚れちゃってる?」

「は…!?」

「ぉ、図星か?」

「そっ、そんな訳無いでしょ!!」

「はっはっは、素直じゃないなぁは。まぁそんなツンツンデレツンな所も魅力的だけどさ」



咄嗟に正臣の言葉を否定したの気持ちを知ってか知らずか正臣は明るく笑う

そんな正臣の横顔を見上げていたは一瞬何かを言い返そうとしたものの、すぐに正臣から視線を逸らす様に下を向いてしまった



「……、」

「ん?どした?」



急に顔を伏せてしまったに正臣が声を掛けるが、は俯いたまま動かない



「おーい、ちゃーん?」

「………」

「…なぁ、ホントに大丈夫か?からかったの怒ってるなら謝るから顔上げてくれって」

「………」

…」




いくら声を掛けても反応の無いを見つめ、正臣は困惑の表情を浮かべる

そして少しの間考え込むと、やがて何かを吹っ切る様にの身体を引き寄せ抱き締めた



「っ!?」

「…悪い」

「正臣…くん…?」



思い掛けない正臣の行動に驚いたは思わず俯いていた顔を上げるが、正臣はの肩に顔を埋めて呟く



「…俺さ、本当は誰かを好きになる資格なんて無いんだ」

「ぇ…?」

「昔好きだった女を守れなかったどころかそいつは俺のせいで大怪我して、最低な事に俺はそいつから逃げた」

「………」

「帝人を呼んだのだってそんな過去から逃げ出したかったからだし、そんな俺が誰かを好きになるとか、どの面下げてって感じだろ」



自分を責めながら自嘲気味に笑う正臣に何も言えず、は正臣の言葉に静かに耳を傾ける



「でも俺は、杏里もも帝人も大切な仲間だと思ってる」

「うん」

「この次は何があってもお前達を守るし、絶対に逃げたりしない。…もう、失いたくない」

「うん…」



力強く抱きすくめられたまま、は横目で正臣を見る



「杏里となんてまだ会って2ヶ月なのに、本当に大事だって思ってるんだ」

「ゎ、私も。杏里ちゃんも帝人くんも正臣くんも、凄く大切だし大好きだよ…」

「大好き、か…。そう言って貰えるのってやっぱ嬉しいもんだよな」



の言葉に嬉しそうに呟くと、正臣はを抱き締めていた腕を解き、真っ直ぐにを見下ろすとその両肩に手を置いた



「俺も、杏里と帝人が大好きだし、お前の事は別の意味でも大事に思ってる」

「…? 別、って…」

「だから…、これは俺の決意の証だ」

「…っ」



言葉の意味にが疑問符を浮かべた次の瞬間、ほんの一瞬だけ唇に暖かいものが触れ、はやや遅れて何が起きたのかを理解する



「ぃ、今……」

「いつか過去にちゃんと蹴り付けたらもっとちゃんとするから、今の所はそれで勘弁な」



そう言って笑う正臣に、は耳まで赤くしながらおずおずと尋ねる



「ぁの、もしかして、私が正臣くんの事好きって、知ってたの…?」

「ん?あぁ。だってお前さっきロッテリアでオレンジジュース飲む時固まってたしな」

「へ…?」

「あれってさ、"これって間接キスになるんじゃ…!!"とか考えてたんだろ?」

「…!!」



すっかり忘れていた先程の自身の行動をずばりと言い当てられ、は驚きの声も上げられずに固まる



「しかも入学式の時自棄に俺の自己紹介熱心に聞いてたし、委員会も被せて来たらそりゃ普通なら気付くし意識しちゃうだろ」

「ば、ばれてた…!!」

「バレバレだっつーの。むしろそれでバレないと思ってた事にびっくりだぞ?」



正臣はまさかの発言に苦笑しながらの頭を軽く撫でる



「まぁそう言うちょっと抜けてる所も好きなんだけどな」



そう言って少し恥ずかしそうに笑う正臣に台詞に は恥ずかしさのあまり真っ赤になった顔を両手で押さえながら、

頭に触れる正臣の手の温もりを感じて幸せそうに笑った






【Arancia amoroso】







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正臣ハピバ!!ヽ(*>ω<)ノ (※現在6月21日1時59分)

いや、何か色々納得行かなくて書いては直して書いては直してしてたらこんな時間に…。

せめて1日遅れとかで上げたかったんだけどホントごめんよ正臣…。

沙樹ちゃんが居るので中々書く機会の無い正臣ですが、正臣を喋らせるのはとっても楽しいです。

喜怒哀楽が付けやすいし、ギャグもシリアスも行けるから書きやすいんですよね。

でも私が書くとついつい悲恋方面に行ってしまうキャラなので、今後も正臣はあまり増えない事でしょう…orz

それでもそんな正臣が好きです!!

本当におめでとう!!

沙樹ちゃんと末永くもげて下さい!!





2014/6/19