「と言う訳で。今日はドタチンの誕生日だよ、二人とも」

「そうっすね。門田さんの誕生日っすね」

「あぁ、誕生日だな」



9月15日(土)

AM11:45

池袋駅前のパーキングに停めたワゴンの中で、狩沢、遊馬崎、渡草は何やら話し合いをしている



「まぁ残念ながらドタチンは誕生日当日もガッツリ仕事で夜までお祝い出来ないんだけどね」

「左官に土日は関係無いって言うか、むしろ土日こそ仕事みたいなとこありますもんねぇ」

「俺達とは違って雇い主が居るんだから仕方ねぇよなぁ」



遊馬崎と渡草は狩沢の言葉に頷く



「でもドタチンが仕事である意味助かったよね〜」

「何せまだプレゼント決まって無いっすからね」

「去年の"アレ"は明らかに失敗だったしな…」



渡草は昨年の様子を思い出しながら頭を掻く



「良いと思ったんだけどねー、ドタチン1/7スケールフィギュア」

「造詣にもかなりこだわって中々良い出来だったんすけど…」

「まぁ何処に自分のフィギュアを貰って喜ぶ野郎が居るんだって話だな」

「えー、私だったら欲しいよ?お気に入りのキャラと並べて写真撮ったりとか!!」

「良いっすねぇ、どうせならフィギュアよりドールで着せ替えなんかもしたいっす!!」



隙あらばそちら方面へシフトする狩沢と遊馬崎の会話を適当に聞き流しつつ、渡草は腕を組む



「つーか真面目に考えないとあっという間に日が暮れちまうぞ」

「むぅ…、ドタチンへのプレゼントでしょー…」

「門田さんの好きな物と言えばやっぱり電撃文庫の本っすかねぇ?」

「でもドタチン新刊出る度に自分で買ってるし、一昔前の買うにしてもどれを読んでてどれを読んで無いか解らないしねぇ」

「他に門田さんの好きな物って何かありましたっけ?」

「好きな物って言われてもなぁ……」



3人はそれぞれ門田のプレゼントに相応しい物を思い浮かべようと必死に頭を捻る



「………」

「………」

「……ぁっ!!」



ふいに、狩沢が顔を上げて手を打った



「そうだよ!!あるじゃんドタチンが超好きなの!!」

「何っすか?」

「何だ?」

「あのね…」



首を傾げる遊馬崎と渡草に何やら声を潜めて説明し、狩沢は得意げに胸を張った



「ねっ!?物じゃないけど、絶対喜ぶと思うんだよね!!」

「確かに、これなら門田さんも泣いて喜ぶっすよ!!」

「泣くかどうかは別にしても去年のよりはずっと良いかもな」

「よーっし、そうと決まったら早速準備だ!!」

「了解っす!!」

「よっしゃぁ!!」



狩沢の掛け声と共に渡草はワゴンを発進させ、3人を乗せたワゴンは東急ハンズ方面へと向かった



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やがて目的地へと到着し、ワゴンから降りた狩沢と遊馬崎がやって来たのは街中のとある花屋

狩沢はいそいそと店内に入ると色とりどりに咲き誇る花を物色しつつ、やがて一人の店員に声を掛けた







背後から花の入替えをしていたを呼ぶと、は疑問符を浮かべたまま振り返る

そして狩沢の顔を確認すると、ぱっと顔を明るくして立ち上がった



「絵里香さん!!」

「えへへー、驚いた?」

「びっくりしましたよ〜。ぁ、遊馬崎さんもこんにちは」

「どうもっす。いやぁ、すっかり治ったみたいっすねぇ」



の足元を眺めながら尋ねる遊馬崎に、は明るく答える



「はい、お蔭様でもう大丈夫です。本当に絵里香さん達があの時助けて貰わなかったらどうなってたか…」



遊馬崎の問いに答えながら呟くと、は二人を見て首を傾げた



「所で今日は揃ってどうしたんですか?」



そんなの質問に、狩沢と遊馬崎は顔を見合わせて笑う



「実はね、今日ドタチンの誕生日なの」

「門田さんの?あぁ、だからお花を?」

「そうなんすよ。とびっきり綺麗で可愛くて、でも何処となく控えめで気品漂う素敵な花を探してたんっす」

「綺麗で可愛くて控えめで気品って…中々難しいですね…、百合とか……蘭とか?」



遊馬崎の提示した条件に頭を抱えるの肩にぽんと手を置きながら、狩沢は悪戯な笑みを浮かべる



「まぁその花はもう見つけてあるんだけどね」

「ぁ、そうなんですか?」

「はいっす。なのでとりあえずには今日仕事が終わった後に運ぶのを手伝って欲しいんっすよ」

「それは別に構いませんけど…」

「良かった!!それじゃぁ16時頃にまた迎えに来るから、お店の前で待っててくれる?」

「ゎ、解りました」



話の流れが良く解っていないまま、とりあえずこくりと頷くを見て狩沢と遊馬崎も満足そうに頷く



「じゃぁ俺達は別の買い物があるんでそろそろ行くっす」

「また後でね!!」



こうして店を後にする二人の後姿を見送りながら、は一人首を傾げた



「買ったお店に配送サービスとか無いのかな…」



そんなこんなであっという間に時は過ぎ、15時を40分程過ぎた頃

は自腹で購入した花で小さな花束を作りながらふと門田達との出会いを思い出していた



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それは少し前の夜の事

仕事を終えたが帰宅しようと歩いていた所、急に路地裏から一人の男が現れた

赤い目をして異様な雰囲気を纏ったその男の手には、ナイフが鈍く光っている

男が斬り裂き魔である事に気付いたは、咄嗟に駆け出し大通りへの道を走った

しかし斬り裂き魔は人間とは思えない動きで追い掛けて来る

あまりの恐怖に思わず後ろを確認しようと振り返った際、はバランスを崩して転倒してしまったのだった

不気味な女言葉で何かを呟きながらナイフを振り上げる男を見上げながら、がもう駄目だと思い目を瞑った瞬間…



「………っ!?」



目の前で響いた鈍い音に、思わずは目を開ける

するとの目に飛び込んで来たのは、吹き飛んだ斬り裂き魔の姿と

その斬り裂き魔を撥ねたと思しき1台のワゴンの姿だった



「大丈夫か!?」



ワゴンの助手席から降りて駆け寄ってきたのはニット帽を被った大きな男で、の両肩を掴んで軽く揺する



「ぁ…」



呆然としていたは身体を揺らされた事でようやく我に返ったが、そのまま立ち上がる事も出来ずに男を見上げた



「腰抜かしたか…、まぁ無理も無いけどな」



ニット帽の男はそう呟いて、ワゴンの方へと声を掛ける



「遊馬崎、そいつは警察来るまで縛っといてくれ」

「ラジャっす!!」



水色のパーカーを着た細身の男は、何処からとも無く荒縄を取り出し手際良く斬り裂き魔を縛り始める



「おい渡草、ヘッドライトは大丈夫か?」

「あぁ、問題無いぜ」



ベストを来た車の持ち主らしき男は、たった今人を撥ねたワゴンの前面を確認し親指を立てる



「良し。それじゃぁ狩沢、後頼むぞ」

「はいはーい」



最後に緩い感じで返事をしながらの元に来たのは、黒い服と帽子の女だった



「大丈夫だった?怪我とかしてない?」

「…ぇと……だ、大丈夫…です」



女の差し出した手を取り、は起き上がろうと足に力を入れる



「っつ…」



しかし右足に力を入れようとした所、激痛が走りは再度地面へとへたり込む



「どうしたの?ぁ、もしかして転んだ時捻った?」

「…そう、みたいです…」

「ドタチーン、この子足捻っちゃって動けないってー」



先程のニット帽の男に向かって叫びながら、先程狩沢と呼ばれていたその人はくるりとの方へ向き直り首を傾げた



「そう言えば貴方名前何て言うの?」

「ぇ?あぁ、えっと、です。

ちゃんね、私は狩沢絵里香。宜しくね」



狩沢が人懐こい笑顔を向けながら自己紹介をしていると、狩沢の背後から再度ニット帽の男が現れた



「おい、足捻ったって?」

「うん、大した事は無さそうだけど一応病院行った方が良いかもね」

「そうか、そんじゃお前は遊馬崎と一緒に斬り裂き魔を見張っといてくれ」

「おっけぃ」



男の指示に従って狩沢が向こう側へと去ると、男はの隣にしゃがみ込んだ



「よっと」

「!?」



そしておもむろにの身体を抱きかかえ、ワゴンに向かって歩き出す



「ぁっ、あの…!?」

「ん?何処か痛むか?」

「ぇ!?いや、その……」

「今病院に連れてってやるから、少し我慢しててくれ」

「はぁ…ぉ、お手数をお掛けします……」



こうして危ない所を門田率いるワゴン組に運良く助けられたは、それをきっかけにその後も時折門田達と顔を合わせるようになったのだった



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「ぁ、もうこんな時間…」



はふと顔を上げ、時計を確認すると慌ててエプロンを取りバックヤードに引っ込む



「すいません、それじゃぁお先に失礼しまーす」



店長やその他の店員に挨拶をしながら先程作った花束を持って店を出ると、既に見慣れたワゴンが店の前に停まっていた

ワゴンに駆け寄ると後部座席の扉が開き、狩沢と遊馬崎が顔を出す



「待ってたっすよ〜」

「ごめんなさい、お待たせしました」

「ううん、それより早く乗って乗って」

「うん。それじゃぁお邪魔しまーす」

「よぉ、悪かったな、急に呼んじまって」

「大丈夫ですよー。渡草さんこそ今日も運転お疲れ様です」



ワゴンに乗り込んだは、渡草に言いながらワゴン内を見渡す



「あれ?」

「どしたの?」

「ぇっと、お花は?」

「花っすか?が持ってたのなら此処っすよ?」

「ぁ、何ソレ可愛い〜。が作ったの?」

「あぁ、はい。一応私からも何かプレゼントしたいなと思って簡単な物ですけど…ってそうじゃなくて」



は首を左右に振る



「ほら、お店に来た時に言ってたお花ですよ。綺麗で可愛くて控えめで気品があるって言う…」

「あぁあれ?それなら此処にあるよ?」

「此処って何処ですか?」

「だから、此処っすよ」



笑いながら自分を指差す遊馬崎と狩沢を交互に見ながら、は頭に複数の疑問符を浮かべる



「ぇ、と………もしかして…、私…?」



狩沢と遊馬崎の指が自分に向いている事でようやく気が付いたのか、冷や汗を浮かべながら自分を指差した



「ピンポーン!!」

「ご名答っす!!」



楽しそうに声を揃える二人を前に、は大きく首を振りながらワゴンの中で後ずさる



「いやいやいや!!私別にそんな褒められた容姿してないしって言うかそもそも私花じゃないですし!?」

「細かい事は気にしない!!ってな訳でラッピング開始ー!!」

「あいあいさー!!」

「〜〜〜〜〜!!!!」



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17時過ぎ

仕事を終えた門田がとあるビルから出てくると、いつも通り狩沢と遊馬崎が門田を迎えた



「門田さんお疲れ様っす」

「ドタチンお疲れー!!」

「その名前で呼ぶなっつーの…」



そんな会話をしながら少し向こう側に停めてあるワゴンへと乗り込むと、渡草はワゴンを発進させる

やがてワゴンは夕飯を食べる為に露西亜寿司へと到着するが、入り口へと向かう門田を狩沢が呼び止めた



「ぁ、ドタチン待って待って」

「ん?」

「目瞑って!!」

「は?何でだ?」

「何でも!!」

「解った解った…」



門田はいまいち納得いかない様子で、それでも狩沢の言葉に従い目を閉じる



「それじゃ門田さん、転ばないで下さいね」



遊馬崎に誘導されながら門田は露西亜寿司の店内へと入った



「はい、じゃぁドタチンストップ、ちょっとそこに立っててね」

「まだ目開けたら駄目だからな」

「ぁ、ライターって何処っすかね?」

「一体何だって言うんだ…?」



目を閉じて待つ門田の周りで、三人が何やらバタバタと動いているのを感じ、門田は呟く

そのまま門田が大人しく待っていると、ふいに店の明かりが消えたのが目を閉じたままでも解った



「良し、皆大丈夫だよね?」

「準備OKっす」

「こっちも大丈夫だぜ」

「じゃぁドタチン、目開けて良いよ!!」



狩沢に促され、門田が目を開けると想像通り辺りは真っ暗で何も見えない



「おい?」



門田がきょろきょろと辺りを見回していると、目の前に居た遊馬崎が手にしていたライターで次々に火を灯し始めた

何かと思えば目の前にあったのは大きなケーキで、遊馬崎が火を点けていたのは上に乗ったロウソクだった



「さぁさぁドタチン、ロウソクを吹き消す準備は良い?」

「…あぁ」



狩沢の言葉でようやく自分の誕生日の為の演出である事を悟った門田は、短く返事をして頷く



「行くぞー」

「せーの!!」



「「「お誕生日、おめでとう〜!!!!」」」



勢い良くクラッカーが鳴り響く中、門田は目の前のロウソクを一息で吹き消した

再び真っ暗になった店内で、門田は狩沢に尋ねる



「おい、いい加減電気付けないのか?」



すると狩沢は悪戯っぽく笑い、門田の背後に回った



「あのね、ドタチンに私達からプレゼントがあるんだ」

「去年のと違って今年のはかなり良いと思うぞ」

「ゆっくり後ろを向いて下さいっす」

「はい、それじゃぁ早速…。ライトアーップ!!」



遊馬崎の言葉に従って門田がその場で方向を変えると、狩沢の一声で店内の電気が一斉に付く



「なっ…」

「こ、こんばんは。あの、お誕生日おめでとう御座います…」



狩沢によってラッピング、もとい着飾られたがぺこりと頭を下げると、門田は三人に目をやった



「どう?可愛いでしょ〜。メイクも髪型も気合いれてみたんだよ」

「服も靴も門田さん好みにしてみたっす!!」

「な?去年のフィギュアよりは全然良いだろ?」



得意げに説明して見せる三人に、門田は若干顔を赤くしながらため息交じりに呟く



「あのなぁ…、祝ってくれる気持ちは嬉しいがまで巻き込むんじゃない」

「ぁ、あの全然大丈夫です。巻き込まれたは巻き込まれたんですけど私も門田さんの事お祝いしたかったですし…!!」



はそう言うと手にしていた花束を手渡す



「あの時助けて頂いた事とか、その後も色々お世話になってたりとか、本当に感謝してるんです」



門田は差し出された花束とを交互に見ると、やがて花束を受け取りふっと笑った



「ありがとな」

「ぃぇ…」



笑い掛ける門田を見てが頬を染めると、狩沢が2人の背中をぽんと叩く



「良し!!それじゃぁ続きは後にしてとりあえず食べよっか」

「そうっすね。さぁさぁ門田さんもも向こうに移動して」

「サイモン、頼んでたやつ5人前宜しくな」



こうして5人はいつもの小上がりでいつもより少し豪華な夕食を楽しんだ



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「ねぇねぇ、そう言えばの作ったその花束って、何か珍しいやつ刺さってるけどそれ何?」



ケーキも食べ終えすっかり満腹になった5人がのんびりと雑談していると、ふいに狩沢が門田の横にある花束を指差し尋ねた



「あぁ、それはスイートバジルって言う門田さんの誕生花ですよ」

「誕生花?」

「はい、365日それぞれにお花と花言葉が割り振られてるんです」

「これの花言葉は何っすか?」

「スイートバジルの花言葉は"何と言う幸運・好感"で、この誕生日の人は優しくて勇気があって、
不幸な人や傷ついている人を見ると黙っておけない性格って言われてます」

「おぉ、すげぇ当たってるな」

「凄い凄い!!じゃぁ1月23日のゆまっちは?」

「えっと、確か花はスノーフレークで、責任感と自立心が強くて割と物事テキパキ運ぶ人…ですね」

「あはは、ゆまっちがテキパキしてるのは二次元に対してのみだよね〜」

「そんな事ないっすよ、じゃぁ11月3日の狩沢さんはどうなんすか?」



遊馬崎が尋ねると、はくすくすと笑いながらそれに答える



「11月3日なら狩沢さんは凄いピッタリですね。花はカモミールで、お喋りでフットワークが軽くてとっても賑やかなタイプです」

「そりゃ当たってるな」

「当たってますねぇ」

「ピッタリだな」

「何よぅ、私だっておしとやかな部分だってありますよーだ。じゃぁ7月30日は?渡草さんの誕生日!!」



一斉に頷く3人に狩沢が頬を膨らませながら尋ねると、は一瞬止まって苦笑した



「ぇーっと…花は火焔木(かえんぼく)って言う花なんですけど……」

「何だ?何でちょっと言い難そうなんだよ?」

「その…、なんて言うか結構激しい所があって、短気だったり問題起こしやすかったりするみたいな…」



困った様に笑いながら渡草に告げると、門田は腕を組んで頷いた



「まぁ今でこそ大人しくなったけど昔は結構ヤンチャしてたもんなぁ」

「今でも車乗ったりライブ行くと性格変わるもんねー」

「何かちょっと納得っす」

「っ昔の事は良いだろ!!」

「でもこんなに当て嵌まると怖いよね」

「本当っすね。生まれた時点で性格が決められてるのかと思っちゃいますねぇ」

「あくまで傾向があるってだけだろうけど、それでも面白いもんだよなぁ」

「つーかお前もしかして365日分全部覚えてるのか?」



ふと渡草が尋ねると、はこくりと頷いてみせる



「はい、一応全部覚えてますよ。他にも花言葉は大体覚えてます」

「うゎ、それって凄過ぎ。花なんて1000種類以上あるんじゃないの?」

「MS全暗記なみの神業っすね!!」

「いや、何だよMSって…」

「やだなぁ渡草さんモビルスーツの事っすよ。俺もそこまで詳しくは無いんすけど、もはやオタクの一般教養的なもので…」

「あー、それだけ詳しいって事は今日のそれも何かちゃんと意味あるのか?」



語り始めた遊馬崎の話を反らそうと、渡草が花束を指差して尋ねるとの顔が一気に赤くなった



「ぅ……ぃぇ、その…」



そんなの様子を見た狩沢と遊馬崎は、互いに顔を見合わせると花束を手に取る



「えーっと…、赤いバラと、赤いチューリップとー…ん?これは何て花?」

「ぇ?えぇと、それはライラック…ですけど……」

「ふんふん、ライラックっすね。何々…」

「わっ、わざわざ調べないで良いですから!!」



遊馬崎が携帯で調べた花言葉を披露しようとすると、は真っ赤にしながら遊馬崎を阻止する

狩沢はそんなを見て楽しそうな笑みを浮かべると、きょとんとした顔で見ている門田に声を掛けた



「て言うかもうこんな時間だし、うちらはそろそろ帰る事にするね」

「ぉ、そうだな。俺と遊馬崎と狩沢はそろそろ帰るとするか」

「そうっすね。可及的速やかに退場するっす」



そんな狩沢の言葉の真意を汲み取った渡草と遊馬崎は素早く身支度を整え、あっという間に席を立つ



「は?ちょっお前ら…」

「それじゃぁ、また今度メールするからね」

「ぇ?あ、あの…」

「おい、も置いて行く気か?」

「そりゃそうっすよ。だっては俺達からのプレゼントですもん」

「渡したんだから、この後どうするのかはそっちの勝手ってやつだな」

「じゃぁまたね〜」

「おやすみなさいっす!!」

「またな」



立ちあがった3人は呆気に取られている門田とをその場に残し、そのまま店から出て行ってしまった



「………」

「………」



取り残された門田とは暫く無言でその場に座り込んでいたが、やがて門田は立ち上がって帽子を被るとに声を掛ける



「…とりあえず俺達も出るか」

「ぁ、はい…。そうですね」



も門田の一言で慌てて立ち上がり、鞄を手にして小上がりから降りた



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「………」

「………」



露西亜寿司を出た2人は、そのまま何となく駅への道を歩き出す

しかしどう会話を切り出せば良いのか解らないと言う空気がお互いに伝わり、更に気まずい雰囲気が漂っていた

どうにかしなければとが話を切り出そうとした瞬間、門田の携帯が着信を告げ2人は足を止める



「ん…?」



門田はその場でメールを確認して暫くの間何かを考え込むようにその場に立ち尽くし、やがての方を振り返った



「なぁ」

「はい?」

「"俺も君を愛してる"って伝えたい時には、どんな花を贈れば良いんだ?」

「ぇ?」

「…は、花言葉を全部覚えてるんだよな?」



門田はから受け取った花束を左手に持ち、それを眺めながら尋ねる



「まぁ…、全部では無いですけど…大体は……」



そう言うと門田は顔を上げ、一歩へと近付いた



「これ、今狩沢から届いたんだけどな」



不思議そうに門田を見上げるにたった今届いたメールを見せながら、門田はの腕を引いて抱き寄せる



「この花束の意味、そのまま受け取っても良いんだろ?」

「…っぇ、と………はい…」



そっと耳元で囁かれる言葉に、は顔を赤くしながら頷いて門田の背中に両腕を回す

門田はそんなを見下ろして笑うと、そのままの頬に触れて顔を寄せた



「ありがとな、最高の誕生日だ」

「門田さん…」









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「バラは愛情、チューリップが恋の告白でライラックは愛の芽生え…ねぇ」

「花に込めた想いなんてロマンチックっすよね」

「相手の男が気付くかどうかって凄く微妙な所だけどな」

「まぁねー。だからこうして教えてあげてるんじゃない」



ワゴンの中で、門田に送り付けたメールを読み返しながら狩沢は呟く



「今頃2人は恋の花満開、ってとこっすかねぇ」

「そうだな、多分明日辺り照れ隠しの説教かました後で"付き合う事になった"って報告してくるんだろうな」

「もしそうなったら今年のプレゼントは大成功だよね」

「それじゃぁ来年の誕生日は2人分のフィギュアっすね!!」

「それ良いね!!いっそウェディングバージョンの格好させてケーキにでも乗っける!?」

「いや、それは流石に気が早く無いか…?」










- END -










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ドタチン誕生日おめでとうです。

30分程過ぎちゃったけどどうにか完成したのです。

マイラヴァー臨也の誕生日は特になにもしなかった癖にねw

臨也が好きだけど、ワゴンのおかん、皆のおかん、ダラーズのおかんなドタチンも大好きです。

これからも愛されまくってね!!




'2012/9/15