「暇だよ〜、刺激が足りないよ〜〜」

は最近そればっかりっすねぇ」



ある日の休日の午後

いつもの様に集まった、遊馬崎、狩沢、渡草の4人は喫茶店で一休みをしていた

"いつもの様に"とは言うものの、そこに門田の姿は無い



「だってこの前の罪歌・ダラーズ・黄巾賊の三つ巴戦争以来池袋ってば平和そのものなんだもん…」

「あぁ、あん時お前何でか妙に張り切ってたもんなぁ」

「ぅ、改めてそう言われるとちょっと恥ずかしいけど…」

「まぁまぁ。今期のアニメは中々豊作だし、そっちに専念出来て良い事じゃない」

「そうっすよ、ひっきりなしに事件に巻き込まれるのは小説の中だけっすからね」

「それはまぁそうだけどさぁ…」



狩沢と遊馬崎の独特な説得に、は不服そうに呟いて机に伏せる



「皆で事件解決の為に奔走したあの時間が楽し過ぎたよ…」

「確かにあの時の私達は輝いてたわよねー、あの瞬間は間違い無く私達が主人公だった!!」

「でしょ?ワゴンで池袋を駆け抜けた日々を思うと現在が退屈で単調でため息出ちゃうのも仕方ないよ」

「あの一件のせいで俺の車のドアが痛々しい事になっちまったけどな…」

「ドア1枚じゃまだまだ痛車とは言えないッスよ渡草さん!!何ならもういっそ全部を改造しますか!?」

「断固として断る!!」



は渡草と遊馬崎のやり取りを眺めながら深いため息をついてみせた



「やっぱ暇だよー…、のどか過ぎるよー…」

「そんな事言って、は門田さんに会う回数が減ったのが寂しいだけなんじゃないんすか〜?」

「そ…、そんな事無いもん」

「ぁ、図星だ」

「違うもん図星じゃないですぅ〜〜〜」



頬を膨らましながら首を振るに、狩沢はをぴっと指差しながらにやりと笑う



「またまたぁ、隠さなくてもバレバレだって」

「門田さんと居る時のは目の輝きが違いますからねぇ」

「未だに手繋ぐだけで顔赤くしてる位だもんな」

「くそぅ、三人揃って人の恋路を娯楽か何かのように…」

「だっての反応が面白いんだもーん。ね、ゆまっち」

「はいッス!!て言うか付き合って結構経つのに未だにそんな初々しい事言ってるのが不思議っすよねぇ」

「確かに、ちょっと二人とも奥手過ぎるって言うか何て言うか…」

「まぁなんつーか…」

「「「頑張れ」」」

「っ大きなお世話!!」



それぞれ顔を見合わせた後で口を揃えた三人から、は伏せたまま拗ねるように顔を背ける

そんなの頭を、渡草は指でつつきながら呆れたように呟いた



、図星だからって拗ねんなよー」

「いーよいーよ…、そうやって未だに手を繋ぐのにもいっぱいいっぱいの可哀想な私を見て楽しんだら良いさ…」

「拗ねてるところも可愛いっすよー」

「可愛いとか遊馬崎くんに言われてもなぁ」

「あはは、ゆまっち振られたー」

「うぅ、いくら門田さんじゃないからって酷いっすよ」



遊馬崎がわざとらしく落ち込んで見せる横で、はむくりと顔を上げるとグラスに残ったオレンジジュースを一気に飲み干した



「自棄オレンジは身体に毒っすよ?」

「うるせぇ、これが飲まずにいられるかってんだー…って何言わせるの」

「乗る方も乗る方だけどな」

「うぅ、渡草さんが冷たいよぅ…。もっと優しくしてくれないと心が折れて死ぬ…」

「はいはい。が優しくされたいのは渡草さんじゃないでしょ〜」

「えりちゃん!!その話ループしなくて良いから!!」

「でもホント最近の門田さんは本業が忙しいみたいで全然顔合わせて無いっすからねぇ」

「まぁ今回は前みたいに部外者の俺達が勝手に入れるような現場じゃないみたいだからな」



遊馬崎の言葉に渡草が頷くと、もストローを咥えたままこくりと頷いた



「そうなんだよね。まぁ門田さんの腕が認められたからこそあぁ言うちゃんとした所からお仕事貰えたんだし良い事なんだけど…」

「でもさ、別に全く休みが無いって訳じゃないんでしょ?」

「うん、週に一日はちゃんと休み取ってるって」

「だったらその休みにが会いに行けば良いだろ」

「だって門田さんのお休みって平日なんだもん…」

「そんなの有給でも何でも取れば良いじゃない」

「まぁ俺達みたいに"今日からマの付く自由業"改めニの付く自由業になるって手もありますけどね!!」

「ぁー、あったよねぇそんな作品」

「やだ!!デザイナーからニートにジョブチェンジは嫌過ぎる…!!」

「渡草さんを前にそう言う事言っちゃ駄目ッスよ」

「おいこら遊馬崎…、俺はニートじゃねぇ!!家賃取立てと言うれっきとした仕事があるんだよ!!」

「でも管理はお姉さんに任せっぱなしなんでしょー?」



相変わらず賑やかな三人のやり取りを眺めつつ、は難しい顔をしてストローから口を離した



「でもわざわざ有給取ってまで貴重な休みの日に会って貰うとか微妙じゃない?重たい女だとか思われそうって言うか…」

「いやいや、むしろそこまでされたら男としては嬉しいもんッスよ?」

「そうそう。ドタチンだって会いたいに決まってるんだし」



遊馬崎の言葉に同意した狩沢のそんな一言に反応し、は急にがっくりと肩を落とした



「それがさー…、門田さんはそうでも無いっぽいんだよねー…」

「何々?どう言う事?」

「…メールでのやり取りは一応毎日してるんだけど、門田さんのメールから寂しがってる感じがしないって言うか…」

「例えばどんな内容だ?」

「ぇと、フツーに今日の出来事とかちょっとした愚痴とかを報告し合う感じ、かなぁ」



が携帯で門田とのやり取りをしたメールを確認しながら説明すると、遊馬崎はにやにやとからかうような笑みを浮かべてに尋ねた



「何か恋人同士の甘〜い会話は無いんすか?語尾にニャンを付けてしまう様な…」

「ニャンって…。そんなの無いよ、至って普通の恋人同士の会話って言うかむしろ普通の恋人同士より淡白な気さえするもん」



落ち込んだ様子でそう呟くに、遊馬崎に続き狩沢が尋ねる



「でもだってどうせ会いたいとか寂しいとか直接伝えて無いんでしょ?」

「うん…、あんまり我侭言いたくないし……」

「ドタチンの性格的にが弱音吐かないなら自分が吐く訳にはいかないって思うんじゃない?」

「ぅ、確かに…」

「仮にドタチンに会いたいって言われては迷惑だって思う?」

「絶対思わない」

「でしょ?」

「つまりも素直に会いたいって言えば良いんすよ。それは我侭じゃなくて彼女として当然の主張っす!!」

「まぁそうだな、それ位の主張はしても良いと思うぞ」



遊馬崎と狩沢はお互いに顔を見合わせた後にに向かって親指をぐっと立て、渡草も後押しをするように頷いた



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「…と言う訳で、三人のアドバイス通り有給を取って門田さんがお休みの今日、急遽お家まで押し掛けたと言う次第です」



部屋の中でがちょこんと正座をしたまま門田に事情を説明すると、門田は納得したように頷いた後で首を傾げた



「なるほどな…。でも別にわざわざ今日まで隠す必要無かったんじゃないか?」

「そこは突然訪問してびっくりさせちゃおうかなって言うお茶目心と突然押し掛ければ断れないだろうと言う打算的な心の表れです」

「なんだそりゃ」



質問に対して馬鹿正直に答えるの前で胡坐をかいて腕を組んだまま門田は苦笑する



「そんな事考えなくてもわざわざ有給取ってまで来てくれたのに追い返す訳ないだろ?」

「だって折角の休みだし、一人でゆっくりしたいかもしれないかなって思って…」

「まぁ一人で溜まった本を消化するのも悪くないけどよ、お前に会えるならそっちの方がずっと良いさ」



門田はそう言うと腕組みを解いてしゅんと項垂れているの頭にぽんと手を乗せた



「でもまぁ、忙しいとは言え俺の方からちゃんと時間作れなくて悪かったな」

「ううん、門田さんが今大変なのは解ってるから。ただ、解ってるのにやっぱり会いたくなっちゃって。…迷惑じゃ無かった?」

「迷惑な訳無いだろ。俺は出来る事なら毎日でも会いたいと思ってた位だ」

「門田さん…」



そんな門田の直球な台詞にが顔を赤くすると、門田自身も自分の発言の恥ずかしさに気付いたのか咳払いをして立ち上がった



「あー…、とりあえずコーヒーでも淹れるか」

「ぉ、お願いします…」



キッチンへ消える門田の背中を見送りながら、はホッと胸を撫で下ろして息を吐いた



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「で、折角有給取ってまで来たって言うのに何処か出掛けなくて良いのか?」



門田がコーヒーを淹れて戻って来た後、暫くの間二人で雑談をしているとふいに門田がに尋ねた



「うん、平日とは言え出掛ければ体力使うし、門田さんさえ良ければ今日はこのまま此処でゆっくりしたいなって」

「まぁ俺は構わないが…、退屈してるんじゃないのか?」

「へ?」

「いや、この間渡草から"が退屈してるからドキドキさせてやれ"ってメールが来たからな」

「なっ…」

「その後続いて遊馬崎と狩沢からも似たようなメールが…」



門田はそう説明しながら三人から来たメールをに見せる

携帯の画面を確認しながら、は顔を赤くする



「三人揃ってなんてお節介な…」

「こいつらにも心配される位だから、余程退屈だったのかと思ってよ」

「…退屈って言うか、あの一件以来平和になっちゃったし門田さんにもあんまり会えなくなっちゃったからつまらないなーって思ってただけで…」



両手を遊ばせながら言い訳をするようにが説明すると、門田は携帯を閉じてコーヒーを一口飲んでから呟いた



「確かに平和になったよなぁ。折原なんかはまた色々企んでるみたいだから気は抜けないが…」

「平和なのは良い事だって解ってるんだけどね。何かこう、ちょっと刺激が足りないと言うか何と言うか…」



も両手でコーヒーを口にしながらため息をつく

門田はそんなの様子を見て首を傾げる



「刺激的って、例えばどう言う事だ?」

「ぇっとね、何だろう…。前に皆でブローカーを追いかけた時みたいに、ドキドキでハラハラで、でもちょっとワクワクみたいな…」

「…まぁ何となく言いたい事は解るけど、俺はもうあの状態の渡草の車は乗りたくないぞ…」



当時の暴走上体のワゴンを思い出しげんなりとした表情で呟く門田の横で、はカップを机に置くとベッドに寄り掛かった



「ぇー、私は楽しかったけどなぁ」

「狩沢と遊馬崎も楽しんでたもんな…」

「ぁ、後アレ、ブルースクウェアの振りして忍び込んだのも楽しかった!!」

「そういや俺は狩沢と遊馬崎と一緒に車に残れって言ったのにお前勝手に付いて来たんだっけな…」

「でも門田さんの言われた通り見てただけで戦闘には参加してないし、門田さんの傍から離れなかったもん」

「そう言う問題じゃないだろ、無事だったから良いものの万が一お前に何かあったら俺は一生後悔する事になるんだぞ?」

「…ごめんなさい」



子供に言い聞かせるように優しくもきっぱりとした口調で諭す門田の言葉に、は素直に謝り項垂れる

門田はしょんぼりと肩を落とすを眺めてふっと苦笑すると、自分もカップを机に置いての隣へと距離を詰めた



「まぁ兎に角、あんまり危険ごとに首突っ込みたがるのは止めてくれよ」

「はぁい」



がやや緊張感の無い返事をしながら門田の肩に頭を乗せるように寄り添うと、門田はの手に自分の手を重ねる



「こうやって穏やかに過ごすのも悪くないだろ?」

「うん…」



は門田の問いに恥ずかしそうにこくりと頷くものの、やっぱり何処か納得の行かないような顔をしている

門田はそんなを見て少しの間考え込むと、何かを思いついた様に握っていた手を離し、改まった様子でに声を掛けた





「はい?って…、っ!?」



門田に呼ばれてが顔を上げると、門田の顔が近付きそのまま唇が重なった



「ーっ!!」



は門田のそんな突然の行動に驚くが、門田はそのままの頭を守るように後ろに手を添えてゆっくりと床に押し倒す



「〜〜っ」



門田に押し倒されるどころか強引に唇を奪われる事など今まで無かった為、は混乱したままぎゅっと目を閉じた



「…ふ……」



やがて唇が離れ、とりあえず酸素を取り込もうと目を開くとじっと自分を見下ろしている門田と目が合いは息を呑む

男らしく凛々しい顔立ちや休日の為いつもとは違う無造作な髪形が目に入り、は改めて門田の格好良さを実感して顔を赤らめた



「門田さ…」



仰向けのまま門田を見上げるの左頬に門田の右手が触れ、はびくりと身体を硬くする

そのまま門田の手は頬から首を伝ってのブラウスのボタンへと移動し、首元の第一ボタンが外された

慌てるを制すように再度唇を重ねながら、門田は第二ボタンまで外したところで今度は首筋へ顔を寄せる



「ぁ…」



門田の頭はそのまま移動し、鎖骨辺りにちくりとした痛みが走る

予想外の出来事にが小さく声を上げると、門田は顔を上げて悪戯な笑みを浮かべた



「どうだ?ちょっとはドキドキしたか?」

「なっ…!?」



そんな門田の台詞にが驚いた顔で門田を見ると、門田は身体を起こして乱れた髪を掻き上げる



「いや、何か不満そうだったからこうすれば少しは刺激的かと思ってよ」

「………」



を見下ろしながら笑う門田の言葉を聞き、は力が抜けたのか仰向けのまま両手で顔を覆った



「門田さんの馬鹿〜!!!!」



顔を覆ったまま左右に振ってじたばたと叫ぶに、門田は額に汗を浮かべる



「お、おい?」

「ちょっとどころかドキドキし過ぎて死ぬかと思った!!!!」

「いや、そんなにか…?」

「だ、だって今まで普通にキス以外した事無いのにあんな強引に…!!しかもキ、キスマーク、とか…!!!!」



は両手を顔から外し肌蹴たブラウスを握り締めると、ぷいと身体を横に向けて門田から顔を反らした



「悪かったって、久しぶりに会ってちょっと調子乗った」

「…………」

、もうしないから顔上げてくれって」

「…〜〜別に………って…でしょ」

「ん?」



拗ねたままのに門田が謝ると、顔を反らしたままのは小さな声で何かをぼそりと呟く

しかし良く聞こえず門田が首を傾げると、は勢い良く起き上がり門田の胸に飛びついた



「別にもうしちゃ駄目とは言ってないでしょって言ったの!!」



の身体を抱き止めながら、門田は照れ隠しの為か自分にぎゅぅとしがみつくの様子に苦笑する



「しちゃ駄目とは言わないって事は、しても良いって事か?」

「…良い…けど………」

「けど?」

「ぃ、いきなりは駄目…。恥ずかしいから……」

「………」



門田の胸に顔を埋めながら呟いたのそんな可愛らしい台詞を聞いて、門田は思わず息を呑んで黙り込む



「どうしたの?」

「いや…、此処最近、ロクに会えなくて改めて気付いたんだけどな」

「うん」

「やっぱり俺はこうやってお前に会って、話して、触れてる時が一番幸せだな」

「……門田さん…」

「でもまだ暫くは忙しくて中々会えない日が続くと思う。でもどうにか頑張るからよ…」

「うん…。ぇ?…うゎっ!?」



急に黙り込んだ門田を前にが首を傾げると、門田はを抱き抱えてそのままベッドへと下ろし両肩に手を置いてを見つめた



「今日だけは少し俺の我儘聞いてくれ」

「ぇっ、と…?」



真っ直ぐに見つめられてたじろぐに、門田は口の端でにやりと笑う



「いきなりじゃなきゃ良いんだろ?」

「…ぅ……………」



は再び顔を赤くしながら視線を泳がせると、やがて決心したように門田を見つめ返して呟いた



「ゃ…、優しくしてね?」

「…ぁー……どうだろうな」

「ぇ?」

「お前が可愛過ぎて抑える自信無いって事」

「………馬鹿」










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「そういや、最近は暇だ暇だって言わないっすねぇ」

「へ?」

「確かにそうだよねー。この前まではあんなにドキドキしたいー、刺激が足りないーって言ってたのにぃ」

「そ、そうだったっけ?」

「あれだろ、どうせ門田に何か言われたんだろ」

「ぅ、うん、まぁ言われたと言うか何と言うか……」

「何々?ちょっとそこ詳しく!!」

「もしかしてアレっすか、俺が刺激を与えてやるよ的なアレっすか!!」

「きゃー、ドタチンやるぅ!!」

「………っ」

「いやいや、お前も何でそこで黙り込むんだよ?つーか顔赤っ!!」

「ぇ、まじで?本当にそう言う展開!?」

「まじっすか…」

「…なんつーか…」

「「「…おめでとう」」」

「祝うなっ!!」




- END -