「ねぇねぇ、の好みのタイプってどんな人?」

「好みのタイプ?別に皆とそんな変わらないと思うけど…、何で急に?」

「いやー、この前ゆまっちと萌え語りしててふとが好きになるキャラって一貫性ないよねーって話になってさ。ね、ゆまっち」

「えぇ〜、そうかなぁ?」

「そうッスよー、だって王子様系からヤンキー系まで幅広く好きじゃないッスか」

「まぁ確かにそうだけど…、でもホラ、二次元なら何でも許せるでしょ、三次元でヤンキーなんか死ねってレベルだけど二次元ならOKとかさぁ」

「あぁ、うんうん。あるよねそう言うの」

「でしょでしょ」

「確かに電波女やヤンデレは二次元だから許されるんであって、三次元だったらお断りしたいとこッスねぇ」

「ぇー、でも遊馬崎くんは空から降ってくる女の子が好みなんでしょ?」

「違うよぉ、ゆまっちは撲殺バットを持ったぴぴるぴるぴる天使が好みなんだって」

「いやいや、実は最近ゆるゆり〜な百合女子も萌えなんスよ!!」



ワゴンの中から聞こえるのは誰が聞いてもその手の話だと解る、けれども誰にも解らないディープな会話



「お前ら…、頼むから日本語で喋ってくれ……」



助手席に座りながら深い深いため息をつく門田を余所に、3人の会話は止まない



「で?で??の好みはどんなカンジ??」

「それって二次元で?三次元で?」

「そうだねー…、じゃぁまずは二次元?」

「二次元はそうだなぁ…、見た目は割と何でも良いんだけど、何か不器用な感じが凄く好きかも」

「不器用ッスか?」

「うん。ツンデレとはちょっと違うんだけど、何かこう中々素直になれないって言うか、
口先では色々強がり言うんだけど実は寂しがりや的なのとか…、そう言うのって超そそるよね!!」

「ぁー何か解るかもー」

「でしょでしょ?庇護欲沸くって言うかさ、でもそれが可愛い男の子とかじゃ駄目で、
目つき鋭い大の男がそんな感じなのがもう滅茶苦茶萌えなんだよね
でも根っからの変態系キャラも好きだなー、マッドサイエンティス系の!!
ぁ、でもでも俺様系ドSも嫌いじゃ無いし〜、ちょっと影のあるクール系も好物なんだよね」

「もうそれ何でも良いって言うんじゃないッスか?」

「そうとも言う!! いやもうぶっちゃけ何でもアリ※ただし二次元に限るって感じ」

「そりゃ好みのキャラも安定しない訳だよねぇ…。ぁ、でもさっき上げたのって、いざいざとかしずしず当てはまるじゃん?」

「折原くんと平和島くん?確かにあの二人って二次元なら滅茶苦茶萌え要素満載だよね。格好良いし一癖も二癖もあるし素直じゃないし」

「でも現実世界じゃ無理、って訳ッスね?」

「そだねー、現実にあの二人とどうこうってのはあまりに無理ゲーだわ。私平穏を求めるタイプだし」

「確かにあの二人とじゃぁ平穏な日常は手に入らないわよね〜」



狩沢の言葉に遊馬崎とは深く頷く



「でもえりちゃんの言う通り二人ともキャラとしては申し分無い位萌えるから、普通にファンみたいな感じではあるかなぁ」

「なるほどねー。でもいざいざとしずしずはの事お気に入りっぽいよ〜?二次元系とお付き合い出来るチャンスじゃん!!」

「いやぁ〜、いくら何でも私みたいなのは相手にしないでしょ。遠くから見てるだけでお腹いっぱいだよ」

「まぁ近寄ってると確実に何かしらに巻き込まれるのは確定的ッスもんねぇ」

「勿体無いなー、折角萌えキャラが近くに居るのに…。まぁいっか。じゃぁ次は三次元の好み教えて教えて」

「三次元かぁ。んっとねぇ…、まずは身長が170以上185以下で、太ってなくてガリじゃなくて筋肉がちゃんとあってー」

「うんうん」

「髪の毛は黒髪で短くも長くもなくてー」

「ほうほう」

「くりっとした二重はアウトで、どっちかと言えば奥二重とかキレ長系の目でー」

「そんでそんで?」

「声が素敵で優しくて穏やかでちゃんと手に職持ってて生活力のある極めてまともな人、かな?」

「うーん、何か所々細かいけど割りと普通ッスねぇ」

「だから言ったでしょー、三次元の場合は普通が一番だってば」

ならモビルスーツ全種類暗記してる男じゃなきゃやだとか言うかと思ってたよー」

「それは無いよ〜、まぁ言えるに越したことは無いし、最低でも正史については把握しといて欲しいけどさ」

「それ難易度高いッスよ」

「でも遊馬崎くん程理想高く無いと思うなぁ」

「あはは、確かに。ゆまっちのハニーは二次元にしか存在しないもんね」

「そう言う狩沢さんだって結構シビアじゃないッスか」

「えー、そうでも無いよぅ」



目的地へと向かうワゴンの中に響くのは、3人のヲタクの会話だけ

渡草も門田も慣れたものだが、やはり長い間聞いていると頭が痛くなってくる

門田は後ろの3人の会話を聞き流しつつ、ため息と共に読んでいた本をしまい寝る体勢を取った



「あれ?でもその条件ってさぁ…」



そんな門田をちらりと見ながら、狩沢がふいに呟く



「ドタチン全部当てはまってない?」



門田を指差しながらそう言って狩沢はにコッソリと尋ねた



「っそ、そうかな…!?」

「うんうん、確かに当てはまってるッスね!!身長174p、筋肉質で黒髪で長くも短くもないッス!!」

「その上低くて渋い声で手に職あって常識人!!これはもしかするともしかしちゃう感じかな〜?」



スラスラとが先程上げた条件を述べ、遊馬崎と狩沢はニヤニヤと笑いながらに迫る



「ちょっ、違うからね!?別にそんなつもりで言ったんじゃないから!!」

「ぉ、ツンデレ風味。良いッスねぇ〜」

「駄目だよゆまっち、ツンデレなら最初の一文字は被せて語気強めに"ち、違うんだからね!!"って言わなきゃ〜」

「いやいや、ツンデレのテンプレは多々あれどその表現方法は画一化されちゃ駄目なんスよ、
ツンとデレの割合だって9:1も良ければ7:3だって有りッス。そもそもの性格を考えるとこの場合のツンデレ比率は
二人きりの時だけ猫のように甘えるタイプのデレ方が似合うと思うんスよね、そうすると大勢の前ではあくまでも
一般人のように振舞う…、これはあれっすね、ツンデレと言うよりクーデレッスよ!!」

「ゆまっちガチ過ぎ〜。まぁ確かにはツンデレってタイプじゃないし、普通にしてればクールな感じよね」

「いやいや本当に違うんだって!!そりゃぁ確かに格好良いなぁとは思ってるけどね!?でもそんな…、
付き合いたいとかそう言う事は別に考えて無いし、あぁいや付き合いたくないって訳でも無いんだけど」

ったら随分テンパってますなぁゆまっち?」

「これはもうクールでも何でもないッスねぇ、テンパりデレなんて聞いた事ないッスよ」

「でもそんなも可愛いかも。そっかぁがドタチンをねぇ…」

「ちーがーうーのぉーーーーー」

「おいお前ら、さっきからちょっと騒ぎすぎだぞ」



車内に響くの叫び声に耐えかねたのか、

寝ていた門田が後ろの席に上半身だけ向けて3人に注意する

するとすかさず狩沢が手を上げた



「はいはーい、ドタチンに質問質問!!」

「何だ?って言うかドタチンって呼ぶなっつの…」

「ドタチンて今彼女居ないよね!?」

「…あぁ、居ないな」

「募集してたりする!?」

「別に募集する程でも無いが…、まぁそう言うのは縁だからな」

「じゃぁさじゃぁさ、ドタチンのタイプってどんな人??」



狩沢が尋ねた言葉に、遊馬崎も一緒になってワクワクした目で門田を見つめる



「はぁ?何だ急に…」

「今とその話で盛り上がってたの!!の好きなタイプは〜、いざいざとかしずしずみたいなタイプだって!!」

「ちょっとえりちゃん!?」



突然自分の名前を出されてうろたえるを見ながら、門田が首を傾げる



「そりゃ意外だな」

「ぇー何で何で?」

「いや、毎回臨也とか静雄を遠目に見ながら"大変そう"って呟いてたからよ」

「何だバレてたんだ?実は今のタイプは二次元の話なのよ」

「二次元ねぇ…」

「そうそう、それで現実ではね、ドタ」

「もうえりちゃんそろそろストップ!!」



は狩沢の背後からガバっと抱きつき、その後の言葉を阻止する

門田は不思議そうにその光景を見ていたが、その隣で遊馬崎が門田に尋ねた



「で、門田さんのタイプってどんな子なんッスか?ぁ、三次元の話ッスよ」

「好みのタイプ、と言われてもな……」



遊馬崎の質問に門田は少し考えてから答える



「別に多くは望まないな、自分をしっかり持ってて前向きであれば。後はまぁ…」



門田は言葉を続けながらを見てふっと笑った



みたいに表情が豊かだと一緒に居て楽しいかもな」

「へっ!?」



門田の思わぬ言葉にの顔は急激に赤くなる

狩沢と遊馬崎は両手を取り合い「おぉ!!!!!」と訳の解らない叫び声を上げていた



「なっ、ななな何言ってるんですか!?」

「ん?いや別に変な気持ちで言った訳じゃ…」

「え〜、でも普段意識してない人にそんな事言わないよねぇゆまっち」

「そうッスね〜、しかも今のを見る目、とーっても優しかったッス!!」

「ばっ!!お前らからかうんじゃない!!」



解りやすく顔を真っ赤にするを前に、門田は慌てて訂正する

しかし狩沢と遊馬崎に囃し立てられ、門田の顔も赤くなる



「じゃぁ門田さんはの事が嫌いなんスか?」

「いや、嫌いな訳ないだろう」

「じゃぁ好きなんッスね?」

「〜〜〜っお前なぁ」

「ほらほらも固まってないでさ、ちゃんと言いたい事は言っておきなよ!!」

「なっ、いや、へ!?」

「さぁさぁ!!」

「さぁさぁさぁ!!」



は狩沢に、門田は遊馬崎にそれぞれ迫られる形になったが

顔を真っ赤にして恥ずかしさのあまり涙目になる見て門田は大きくため息をついた



「あぁもう解った解った。渡草、ちょっと車止めてくれ」

「あいよ」



門田に言われ、渡草は人通りの少ない路地に入り邪魔にならない場所に車を止める



「悪いな。それじゃぁ狩沢、俺とちょっと場所変わってくれ」

「はいはーい」


更に角田は車を降りて狩沢と席を代わり、狩沢が助手席、角田が後部座席に移動すると
助手席の狩沢とその後ろに座る遊馬崎に向かい角田は腕組みをして話し始めた



「まず最初に言っておく。お前らが俺をからかって遊ぶのは構わないがまで巻き込むんじゃない」



車が止まり静かになった車内で、角田は狩沢と遊馬崎に懇々と説教を始める



だって散々嫌がってただろ?そうやって二人して盛り上がって騒ぎ立てるのは良くない癖だぞ」

「ごめんなさーい…」

「すみませんッス…」



狩沢と遊馬崎も角田の言葉を素直に聞き入れているようで、二人して項垂れている



「ごめんね…」

「やり過ぎたッス…」



しょんぼりと謝る二人に、は苦笑しながら首を横に振った



「ううん、私もちょっと過剰反応し過ぎちゃったし…」

「よし、解ったら次から気をつけろよ」

「「はーい」」

「さて、それじゃぁ本題なんだが」

「?」

「?」

「?」



今のお説教は本題では無かったのか

角田の言葉に三人は首を傾げるが、角田は一つ咳払いをしてから切り出した





「っはい」

「俺はお前が好きだ」

「はい!?!?!?!?!?」

「おぉぉぉぉぉぉ!?」

「おぉぉぉぉぉぉ!!」



改まっての角田の告白に、は驚きの表情で固まる

狩沢と遊馬崎は先程のお説教のショックも忘れた様子で顔を見合わせて叫ぶ



「なっ、なっ…なっっ」



言葉にならない声を上げながら口をぱくぱくさせるに向かい、角田は真剣な面持ちになる



「こういう事は場合によっちゃ気まずくなるから人前で言いたくは無かったんだけどな」

「…………」



ため息交じりに呟きながら遊馬崎と狩沢をじとりと睨む



「まぁ答えは急がなくていいし気まずければそのまま放置でも構わないから、あまり気にしないでくれ」

「ぁ…」

「狩沢、席戻るぞ」



門田はそう言って帽子を被り直すと、車を降りて再度助手席に戻ろうとした

しかし門田がドアに手を掛けたところで背中を引っ張られ、動きを阻止される

振り返ると未だに顔を赤くしたままのが何故か涙目で門田を睨むように見つめながら服の裾を掴んでいた



…?」



門田が声を掛けると、は一度目を閉じた後、何かを決意したようにその目を開き

次の瞬間掴んで居た裾を思いっきり引っ張り門田の体を自分の方へと引き寄せた



「………!!」



勢いが付きすぎたせいでやや事故のようになってしまったが、と門田の唇がしっかりと重なる



「きゃぁぁぁぁぁ♪」

「ふぉぉぉぉぉぉ!!」



狩沢と遊馬崎が盛り上がる中、門田は驚きのあまり目を見開いたまま固まっている

そしては唇を離すと両手で顔を覆い、何事かを叫びながら遊馬崎を押しのけワゴンから降りて行ってしまった



ってばやるぅ!!」

「テンパりながらもそんな大胆な事をやってのけるなんて…、流石っスね!!」

「っつーかの奴行っちまったけどいいのか?」



きゃぁきゃぁと二人が喜ぶ中、渡草の言葉で固まっていた門田がようやく我に返った



何処行っちゃったんだろうねー」

「自分でやったのに恥ずかしくなって逃げ出すとか、萌えの極みッスねぇ」

「ほら門田、とっとと追い掛けて来い」

「そうだよドタチン、早くヒロイン捕まえてこなきゃ」

「ちゃんと"待てよ!!"って言いながら腕を掴んでそのまましっかり抱き締めるんスよ?」

「ぁ、あぁ……」



渡草、狩沢、遊馬崎にそれぞれ駆り立てられて、門田はふらふらとワゴンを降りる

そして未だに混乱したまま、が走って行った方向に向かい走り出した



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・





「門田さん…」



門田がワゴンを降りて近くを捜索していると、程無くして自販機の影に座り込んでいるを見つけた



「…………」

「…………」



見つけた事に安堵し話し掛けたは良いものの、その後の会話が続かない

あんな事があった後に何をどう切り出せば良いのか門田には解らなかった

も自分のしでかした事の大胆さを今さら感じ、自分からは中々話を切り出せない

門田はの前に立ったまま暫くを見下ろしていたが、やがて自分も同じようにしゃがみ込んでに話し掛けた



「……あー…何だ」

「…………」

「その…、悪かったな…」

「な、何がですか…?」



突然謝られた事にが驚いて門田を見ると、門田は頭を掻きながら視線を合わせないままで答えた



「いや、狩沢達のからかいに乗じて急に告白したりしてよ」

「ぃ、ぃぇ…」

「でも別に冗談でも嘘でも無いからな。それだけは信じてくれ」

「はい…」

「…で、その……さっきの…事なんだが」



門田はの様子を窺いながら、先程のに行動について尋ねる



「あれは…、肯定してくれたって事で良いんだよな…?」



門田の言葉には少しの沈黙の後に小さくこくりと頷いた



「そうか」



が頷いたのを見て、門田はホッとしたように笑いながら立ち上がるとしゃがんでいるに手を差し出した



「それじゃぁ改めて…、これからも宜しくな」

「こ、こちらこそ宜しくお願いします…」



そう言うと門田が差し出した手を取り、も立ち上がる

立ち上がったが繋がれた手を眺めながら嬉しそうに微笑んだのを見て、門田は耐え切れずその場でを抱き締めた



「かっ、門田さん!?」

「絶対に幸せにするからな」



門田は驚くの身体をしっかりと抱き締めたまま呟くと、そっと身体を離しの顔に自分の顔を近付けて真剣な表情で告げる



「俺は折原みたいに頭も回らないし静雄みたいに力も強く無い。でもお前の事は何があっても守るし幸せにしてみせる」

「ぁ、あの…、はい。う、嬉しい…です……」



狩沢や遊馬崎と会話している時の勢いは何処へやら

は頬を染めたまま門田を見上げてはにかむ

そんなの表情が可愛らしくて愛おしくて、門田はそのままの唇に自分の唇を重ねた



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「ぁ、ちゅーした!!」

「いやいや良いっすねぇ」

「おーおー、の奴慌ててんな」



狩沢と遊馬崎と渡草が、少し離れた場所に止めたワゴンから覗いている事を二人はまだ知らない

ワゴンの中で盛り上がる3人に、門田とが気付いて赤面するまで後少し



「ヒーローとヒロインがくっついてめでたしめでたしかぁ…。まぁたまにはベタなのも良いよねー」

「そうっすね、王道は広く愛されているからこそ王道なんすよ」

「しっかし裏道とは言え公道で良くやるよな…」





-END-





'12/01/03