「人肌が恋しい」

「…は?」



某月某日

池袋の某喫茶店にて

突然の口から発せられた台詞を、臨也は理解出来ずに尋ね返した



「人肌がね、恋しいんだよ」

「唐突過ぎて意味不明なんだけど」

「何て言うか、温もりが欲しいの」

「うん、やっぱり意味が良く解らない」

「だからー、触れ合いたいの。人と。こう、ぎゅーっとね?」



向かい側に座っているは、自分で自分の身体を抱き締めながら臨也に説明して見せる

臨也はそんなの姿を心底呆れた表情で眺めている



「何でそんな急に発情した訳?」

「発情って言う程のあれじゃなくて、ただ人に触れたいなってだけだもん」

「はぁ…。まぁどうでも良いけど、それでどうする気?」

「何が?」

「その意味不明な欲求をどう解消する気か聞いてるんだよ」

「ぇっと…、とりあえず杏里ちゃん辺りに連絡してみようかな?」



は臨也の質問に答えると、携帯を取り出し素早くメールを打ち始めた



「何で園原杏里?」

「そりゃぁ杏里ちゃんの胸が大きいからですよお兄さん」

「…まぁ、人間て自分には無い物を求める物だよね」

「何それ酷い」



メールの送信を終えたは携帯を机の上に置き、飲み掛けのアイスティーを口にして臨也に尋ねる



「臨也は無いの?」

「何が?」

「誰かの温もりが恋しい事とか」

「無い」

「何で?」

「何でも何も…」



そう呟いた臨也がそれ以上答えず代わりに大きなため息つくと、の携帯が着信を告げた



「ぁ、返信来た来た」



机の上で震える携帯を手に取り、はメールを確認する



「ぉ、杏里ちゃん今帝人くんと正臣くんと東口の公園に居るらしいよ」

「ホント仲良し3人組だねぇ」

「良し、そんじゃ早速行って来るね!!」



はグラスの中身を飲み干すと嬉しそうに立ち上がり店を出た



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「…で、何でついて来るのかな?」



東口公園までの道を歩きながら、は隣の臨也に問い掛ける



「いたいけな少年少女が変態に襲われるのを見過ごす訳には行かないからねぇ」

「変態って失礼だなぁ。別に取って喰ったりしないのに…」

「信用出来ないから言ってるんだよ」



頬を膨らませながら遺憾の意を示すを、臨也は横目で伺いながら呆れたように笑った



「居た!!杏里ちゃぁぁぁん!!!!」



やがて公園の入り口まで辿り着くと、3人の姿を見つけたは杏里目掛けて猛スピードで駆け寄る



さん、こんにちは」

「こんにちは!!ごめんね、急に会いたいとか言っちゃって」

「いえ、大丈夫です」



杏里の両手をぎゅっと握り、はにこにこと笑い掛ける

そんなの人懐こい笑顔に杏里が照れたように笑って僅かに首を振ると、その場に居た帝人と正臣も杏里の隣に移動して来た



「こんにちはさん」

「ちわーっす。いやぁさん今日も一段とお美しいですね!!」

「あぁ、帝人くんと正臣くんもごめんね、折角3人団欒中だったのに」

「いえ、団欒って言っても正臣の話を聞いてるだけですから」

「何だとー?俺は何処かの奥手くんと違って杏里を楽しませる為に努力してるんだよっ!!」

「うゎ、ちょっ、痛いよ正臣!!」

「うんうん、相変わらず仲良しだねぇ」



帝人と正臣のいつも通りのやり取りを眺めて頷いていると、ふいに帝人と正臣と杏里が一斉にぎくりとした様に動きを止めた



「どしたの?」



疑問符を浮かべながら3人の視線を追ってが後ろを振り返ると、そこには臨也が微笑んで立っていた



「こんにちは。今日も仲良しで微笑ましい事だね」

「…どうも……」

「やだなぁ園原さん、今日の俺は単なる付き添いだからそんなに警戒しなくても大丈夫だよ?」

「臨也さんも一緒だったんですね」

「やぁ帝人くん。とは今まで一緒に居たからついでにね」

「ぁ、さん、この前言ってたゲームって結局クリア出来ました?」

「紀田くん、無視は良くないんじゃないかなぁ?」

「あぁすいません。清らかで純粋な俺の目には臨也さんがちょっと映りにくくて」

「ちょっと正臣…」

「あはは、さっき俺の事見て"うゎ、嫌な奴が来たなー"って顔してた癖にねぇ」

「解ってたならそのまま帰ってくれても良かったんですけどねー?」

「あぁもう…。ぁ、あの、さんは今日は一体どうしたんですか?」



通常通り、険悪なムードの漂う正臣と臨也のフォローを諦めた帝人は話題を変えようとに話を振る



「ん?あぁそうそう。ぇっとねぇ、今日は杏里ちゃんにちょっとしたお願いがあって来たんだ」

「私に…ですか?」



に呼ばれて首を傾げる杏里に向かい、は悪戯な笑みを浮かべる



「うん。杏里ちゃん、ちょっとだけ両腕広げて貰って良い?」

「腕を…?」

「そうそう。こうね、軽く広げる感じで」

「こ、こうでしょうか…」

「うん、そんな感じ!!」



に誘導されるがままに杏里が両腕を軽く開くと、は満足そうに頷いてそのまま勢い良く杏里の身体に抱き着いた



「「「!?」」」

「あぁ、癒されるなぁ」

「ぁ、あの…っ!?」



の突然の行動に3人が驚く中、はぎゅうと杏里の身体を両腕で抱き締めたまま幸せそうな顔をしている



「あのー…臨也さん…」

「何?」

「これは一体…何ですか?」



急に抱き着かれて戸惑う杏里を見守りながら、帝人と正臣も同じ位戸惑った様子で臨也に尋ねる



「俺に聞かれても困るんだけど…、何か急に人肌が恋しくなったらしくてさ」

「いや、人肌って…」

「もしかしてさん、わざわざ杏里に抱き着く為だけに此処に…?」

「うん、そうらしいね」

「………」

「………」



杏里の胸に顔を埋めて幸せそうに目を細めるを眺め、帝人と正臣は顔を見合わせた後で臨也の顔を見上げた



「何か言いたそうだね」

「いや、なんと言うか…」

さんてホント自由人だよなぁ…」



3人が半ば脱力した表情で見守る中、は顔を上げると満足そうに呟く



「あぁ、やっぱり杏里ちゃんは胸大きいし可愛いし細いしパーフェクトだねぇ」

「ぃ、いえそんな…」

「いやぁ大分満たされた!!ありがとね杏里ちゃん」



ようやく杏里から離れたは爽やかな笑顔で杏里にお礼を告げると、きらきらとした表情のままくるりと帝人の方へ顔を向けた



「はい次、帝人くんおいでー」

「ぇえっ!?」



両腕を広げて受け入れ態勢万全なに、帝人は直立不動のまま固まる



「いや、あのさん…」

「照れなくても良いよ!!さぁさぁ!!!!」

「ほら帝人、さん呼んでるぞ?」

「いやいやいやいやいやいやいや!!!!」



にこにこと帝人を呼ぶの方へ正臣に背中を押されながら、帝人は助けを求める様に臨也の顔を見る



「あのっ…!!」

「良いんじゃない?たまには園原さん意外の女性とも触れ合っておくべきだよ」

「とか言いながら臨也さんちょっと目が怖いですけど!?!?」

「ほれ行って来ーい」

「うわっ!!!!」



焦る帝人の背中をぐいぐいと押していた正臣は、トドメとばかりに帝人を押す

よろけたそのままの勢いでの腕に飛び込んだ帝人を抱き止めながら、は満面の笑みで帝人を見下ろす



「いらっしゃぁい」

「あぁああぁぁああのっ」

「帝人くんは小さいなぁ、細いなぁ。成長途中って感じで良いね!!可愛い!!」



にやにやしている正臣、口元は笑っているけれど目が笑っていない臨也、苦笑している杏里

3人に見守られる中、帝人は一人顔を真っ赤にしてを見上げる



「ど、どうしてこんな事に……」

「おいおい帝人、そんな事言っても顔が若干にやついてるぞ?」

「なっ、変な事言わないでよ正臣!!」

「よーし、堪能した!!」



そんなやり取りの中、やがてがそんな言葉と共に帝人を開放すると今度は正臣が自ら両腕を広げての前に躍り出た



「さぁさんっ、最後は俺との熱〜〜いハグを!!!!」



正臣はそう言ってに抱き着こうとするが、いつの間にかの前に現れた臨也が正臣の身体を右手で軽く押す

するとそのままの勢いで、正臣の身体は両腕を広げて迎え入れようとしていたでは無く帝人の方へと向かい、正臣は帝人に抱き着く形となった



「どゎぁ!?」

「んがっ!?」



抱き合うと言うよりはぶつかり合った帝人と正臣は、お互いに奇声を上げてその場に倒れる



「なっ、何するんですか臨也さんっ!!」



立ち上がりながら恨めしそうに臨也を見上げる帝人と正臣を無視したまま、臨也は成り行きを見守っていたに声を掛けた



「ねぇ

「ん?」

「園原さんで満足したなら狩沢とかセルティも試したら?」

「ぁ、いいねぇそれ」



臨也の提案にの興味はすっかり正臣から反れたようで、ぱっと顔を輝かせると早速携帯で電話を掛け始める



「臨也さん、男の嫉妬は見苦しいっすよ」

「何の事かな。俺はただ君の彼女が悲しまないようにと思っただけなんだけど」

「何でそこで沙紀が出て来るんすか」

「さぁ、何でだろうね?」

「ぁ、えりりん?今何処?うん、そうそう、今からちょっと会いに行って良い?うん。ホント!?解った、じゃぁ後でね!!」



正臣と臨也が再び火花を散らし合う中、は狩沢との会話を終えて携帯を鞄にしまう



「えりりん今ハンズの駐車場に居るって」

「そう、それじゃぁ行こうか」

「うんっ。杏里ちゃん、帝人くんありがとね。正臣くんはまた今度の時にでも!!」



3人にひらりと手を振って歩き出すの後に臨也も続き、2人は公園を後にした

と臨也の背中が見えなくなった所で、3人は一斉に安堵のため息を吐き出す



「何か…どっと疲れた……」

「そう、ですね…」

「帝人と杏里はまだ良いだろ…。俺なんか疲れた上にさんに抱き締めてすら貰えなかったんだぞ?」



そんな正臣の嘆きなど露知らず、と臨也は東急ハンズ前へと向かった



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「えりりん、会いに来たよー」

待ってたよ〜」



東口公園を後にしたは、やがてハンズ横の駐車場に狩沢の姿を見つけると先程と同様に狩沢の元に駆け寄った

駆け寄るを迎える狩沢に、はそのまま自然な流れで抱き着く

よりも少し背の高い狩沢の腕にしっかりと抱き留められながら、は非常に満足そうに笑った



「えへへ、えりりんも柔らかくて良い感じ〜」

「何々?何の話?」

「何か知らないけどは今日欲求不満なんだってさ」



に尋ねる狩沢の言葉にの後ろから追いついた臨也が説明すると、は顔だけを臨也に向けて頬を膨らませる



「ちょっと臨也、誤解される言い方しないでよね」

「だって実際そうでしょ?」

「違うの、今日は人の温もりに飢えてるだけなの!!」

「あぁ、いつもの突発性の好奇心かぁ。この前は確か手触りを楽しみたいとか言って皆の髪の毛弄りまくってたもんね」

「そうだっけ?」

「そうだよ。その前は男連中に腕相撲勝負させまくってたし、更にその前は伸縮性がどうこうって言ってほっぺとかつまみまくってて…」

「あぁそうそう。ほっぺはね、えりりんが一番気持ち良かった。意外と新羅くんのほっぺもすべすべで良かったけど」



そう言いながらが狩沢に抱き着く腕に力を入れると、狩沢はの頭を撫でながら首を傾げた



「て言うか、さっき"えりりんも"って言ってたけど、今日は他にも誰かに会って来たの?」

「うん、さっき杏里ちゃんと帝人くんを堪能して来たよ」

「あれ?紀田くんは?」

「何か臨也に阻止されちゃった」

「なるほどね」

「って言うか門田さん達は?」

「今買い物中〜。そろそろ戻ると思うんだけど…」



の質問に答え、狩沢が辺りを見渡すと遠くの方に遊馬崎達の姿が見えた



「あぁほら、今信号待ちしてるよ」

「ぁ、ホントだ」



狩沢が指差す方向に遊馬崎達の姿を見つけると、は狩沢に抱き着いたまま臨也に声を掛けた



「ねぇねぇ、臨也って175cmの58kgだったよね」

「そうだけど…、それが何?」

「遊馬崎くんって身長いくつだろ」

「さぁ」

「情報屋なのに知らないの?」

「遊馬崎の身長を金払ってまで知りたがる人間が居るとでも思ってるの?」



呆れたように臨也が答えると、門田、渡草、遊馬崎の3人が達の所へ戻って来た



「よぉ、も折原も揃ってどうしたんだ?」

「久しぶりだな」

「って言うか何すか、いつから2人はビリビリでジャッジメントな関係になったんすか?」



門田と渡草がと臨也に向かって軽く手を上げる横で、遊馬崎は未だにくっついたままの狩沢とを見てテンションを上げる



「何か今日はくっつきたい気分なんだって」

「何すか?それ」

「解らないけど何だかとっても人肌が恋しい感じなの」

「まぁのとんでも発言は今更なんで驚かないっすけど…」

「そういや遊馬崎くんって身長と体重どれくらい?」

「身長と体重?174cmの55kgっす」

「軽っ!!それはちょっと細すぎるねぇ、どれどれ…」



遊馬崎の身長に対する体重が随分と軽い事に驚いたは、狩沢から離れるとおもむろに遊馬崎の腰を両手で掴んだ



「ちょっ、!?」

「……細いって言うか薄っ、何これ薄っ」

「おいおい、あれ良いのか?」

「ん?別に良いんじゃない?は満足そうだし」



遊馬崎の腰に抱き着くを横目に渡草が尋ねると、臨也は至って普通の調子で答える



「紀田くんは阻止したのに?」

「それは彼に対する単なる嫌がらせだからね」



そんな臨也に狩沢が先程に聞いた内容を思い出して尋ねると、臨也は口元に笑みを浮かべて答えた



「(いざいざってぇ、結構大人げ無いよねー」

「(まぁこいつは高校の頃から頭良い癖に所々子供っぽかったからなぁ)」

「そう言うのは聞こえないようにやってくれない?」



臨也が狩沢と門田の全く潜んでいないひそひそ話に突っ込みを入れると、は遊馬崎から離れてため息混じりに呟いた



「んー、ゆまっちは細すぎてちょっと物足りないなぁ」

「散々好き勝手しといて酷い言い草っす…」

「じゃぁじゃぁ、ドタチンだったら良いんじゃない?」

「っおい狩沢」

「ドタチンて身長いくつだっけ?」

「183だ。…って言うかお前のせいで狩沢が真似するようになったんだぞ」

「どたちんかぁ…確かに体格は良いよね!!」

までドタチン言うなって…」

「俺も門田さんって呼び方を改めた方が良いんすかね?」

「どうしてそうなる」

「じゃぁ俺も改めるか。なぁドタチン」

「渡草まで…勘弁してくれ」



臨也とのせいでただでさえコントロールの利かない狩沢や遊馬崎が暴走を始め、門田は深く大きなため息を吐く



「それじゃぁ早速!!」

「は?ちょっおい!?」



そんな中、門田の目の前に移動して来たは悪戯な笑みを浮かべると隙を付いて門田に抱き着いた



「どうどう?どんな感じ?」

「うーん…」



狩沢がに尋ねると、は暫く黙り込んだ後でぼそりと呟いた



「私、ファザコンでも何でも無いけど…、お父さんみたいですっごい落ち着く」

「あー…」

「あぁ…」

「ですよねー…」

「だろうなぁ…」

「お前等…」



狩沢、臨也、遊馬崎、渡草の順で同時に納得した4人に、門田は肩を落とす

は門田の胸に顔を埋めて暫く堪能していたが、やがて顔をあげると門田から離れて臨也の隣へと移動した



「ぅー、どたちんで落ち着いたら何か眠たくなっちゃった…」

「何、もう満足したの?」

「うん、満足した」

「セルティはどうする?」

「また今度で良いや。今日はもう帰って寝る…」

「そう」



臨也の問い掛けにあくび交じりに答えるの言葉を聞くと、臨也は門田達に声を掛ける



「じゃぁ、そう言う訳だから」

「ん?あぁ、もう帰るのか」

「ねぇねぇ、今度またカラオケ行こうよ」

「うんっ、私あのえりりんと遊馬崎くんのデュエット聞きたいな」

「じゃぁ練習しておかないとっすね」

「後渡草さんの聖辺ルリも楽しみにしてるね」

「任せとけ。っつーかどうせならが覚えろよ、俺が合いの手入れてやるから」

「ぁ、それも良いかも。じゃぁ頑張って覚えるよ」



達が和やかにそんな会話を交わしている間に、臨也は駐車場の出入り口でタクシーを止めてを呼ぶ





「今行くー。 それじゃぁ皆、またね」

「おぅ、またな」

「ばいばーい」

「また今度っす」

「じゃぁな」



4人に見送られながら臨也とはタクシーに乗り込み、走り出したタクシーがやがて見えなくなると門田がぽつりと呟いた



「…しかしまぁ何つーか、相変わらず甘やかしてるよなぁ」



呆れたような、何処か微笑ましそうな声でそう呟く門田の言葉に、狩沢、遊馬崎、渡草も頷きながら続ける



「でも何が凄いってあれだけ甘やかされてる現状をが特に不思議に思っていないって事よね」

「まぁ気まぐれと言うか自由奔放と言うか突拍子も無いをさり気にコントロールしてる臨也さんも凄いっすけどね」

「結局どっちにしたって振り回されるのは周りの人間だもんな」

「「「確かに…」」」



渡草の言葉に門田、狩沢、遊馬崎が同意すると、4人は諦めたように笑ってため息をついた



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「ただいまー」



タクシーに乗って数十分

臨也の事務所に戻ったは靴を脱ぎ玄関を通り抜けるとそのまま寝室へと向かう

臨也が少し遅れて部屋に入ると、は既にベッドの上に仰向けに寝転んでいた



「臨也臨也」



は仰向けのまま、部屋に入って来た臨也を呼んで両腕を広げる

呼ばれた臨也はを見下ろすと小さく笑い、仕方ないなぁと言わんばかりにため息をつきながらベッド上のに覆い被さった



「うん、やっぱり臨也が一番良い」



臨也の背中に両腕を回して抱き着きながら嬉しそうに呟くに、臨也は脱力気味に答える



「それ位わざわざ試さないでも解って欲しいんだけど」

「それじゃ意味ないんだよ。百聞は一見にしかずって言う言葉もある事だし」

「だからって、は思い付いたままに行動し過ぎ」



そう言って臨也がの髪の毛をくしゃりと撫でると、は気持ち良さそうに目を細めて身体から力を抜いた



「臨也の手って、ドキドキするけどあったかくて気持ち良いから大好き」

「そう」

「ぁ、駄目だ。本当に眠いや…」

「良いよ、寝ちゃっても」

「うん、おやすみ…」



は閉じかけの目で臨也を見上げながら臨也の言葉に小さく頷くとそのままゆっくりと目を閉じる

やがて聞こえて来た規則正しい寝息を聞きながら、すっかり眠ってしまったの寝顔を眺めて臨也は一人笑う

気紛れで、掴み所が無く、自由気ままで、かと思えば甘えてすり寄って来る姿は、まるで本当に猫の様だ

そんな事を考えながら、臨也はの額にそっと口付けると自身もの隣に横たわって目を閉じた










『こねこなあのこ』