「ねぇ臨也」



「何?」



「今日は1日天気が良いらしいから外に出たら良いんじゃないかなって思うんだよね」



「外って?」



「外は外。何でも良いから何処か素敵な所に行きたい」



休日の朝



パジャマ姿のはベッドに転がりながら臨也に訴える



「素敵って言われてもねぇ…。例えば?」



「例えばー…、水族館とか、遊園地とか、動物園とか、ゲームセンターとか?」



「デートがしたいなら素直にそう言ったら?」



「臨也といちゃいちゃでラブラブなデートがしたいですー」



ころりと転がって臨也の肩に顔を押し付けながら拗ねたように申し出ると、臨也はの頭を撫でながら仕方ないなぁと笑った



「まぁ此処最近忙しくてロクに出掛けられなかったからね」



「そうだよ、たまに外出るって言っても池袋ばっかりでさ。しかも大抵静雄くんとじゃれあっちゃって私の事放置だし」



「放っといた事については謝るけど、彼氏の生死が掛かってるのにじゃれ合ってるとか形容するのは酷いんじゃないかなぁ」



「彼氏の生死が掛かった追いかけっこを毎回遠くから見てるだけの彼女の身にもなってよね」



「仕方ないでしょ?毎回毎回シズちゃんがしつこいんだから」



「毎回毎回ちょっかい掛けてる臨也が悪いんでしょ」



「何?はシズちゃんの肩を持つ訳?悲しいなぁ、俺の事なんてどうでも良いんだ」



「そんな訳無いでしょ。私はどっちかって言ったら静雄くんが憎いもの」



「何で?」



「だって、毎回臨也にたくさん構って貰えてずるいもん」



が不満そうに呟くと、臨也は一瞬きょとんとした顔をした後でため息交じりに苦笑しての身体を引き寄せた



「俺が悪かったから、機嫌直して?」



「…じゃぁ、今日お台場に連れて行ってくれたら許してあげる」



「それはもちろん構わないけど…、何でお台場?」



「だって、お台場って何かデートスポット!!って感じでしょ」



「なるほどね、それじゃぁ良い加減起きて支度しようか」



「はぁい」



臨也がそう言って起き上がったのに続き、ものそのそとベッドから降りる



見るからにうきうきとした様子で準備をしているを眺めながら、臨也はふっと小さく笑った



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「到着〜」



「土曜だけあって暇人が多いね」



「池袋も新宿も人は多いけど、やっぱり比べ物にならないよね」



人込みを眺めながらげんなりした様子の臨也とは対照的に、はにこにこと嬉しそうに笑って歩き出す



「まずは買い物!!夏服買いたい!!」



「持てる範囲にしてよね」



「任せて!!」



はぐっと親指を立てて笑うと、くるりと方向転換してショッピングモールへと歩みを進める



臨也はそんなの少し後ろを追いながら、あちこちの店に目を奪われてはフラフラと彷徨うを観察するように眺めた



「ねぇ臨也、これ可愛い!!」



「どれ? あぁ、可愛いかは良く解らないけどには似合うんじゃない?」



「本当?じゃぁちょっと試着して来て良いかな」



「うん、行ってらっしゃい」



いそいそと試着室に向かうを見送りながら、臨也は壁際に移動して店内を見渡した



買い物客の中にはカップルも居たが、割合としては当然ながら女性客が多かった



そんな女性客を眺めながらつくづく人間は多種多様だと臨也は考える



身長の高低、体格の貧富、見た目の好みは人それぞれだろうが、一般的に見た美醜と言うのも実に様々だ



目や鼻や口の位置、形



髪型



化粧の有無、方法、程度



声の高低や表情、仕草



人間と言うのは本当に些細な要因が重なりあって形成されているものだと、改めて行き交う人を眺めては実感する



しかしこの様に膨大な数の人間が存在する中で、恋人同士になると言うのはどういう事なのだろうか



運命だなんて粗末な言葉で片付けるべきでは無いのではないか



周りの人々の顔を一人一人確認すれば、一般的に見て可愛い、綺麗、残念ながら…、等と言った評価はいくらでも下せる



しかし臨也にとっては顔の良し悪しなどは関係無く、人間は等しく愛すべき存在であり、それとまた同時にどうでも良い存在でもあった



自分は老若男女に関係無く人間と言う存在の全てを愛し、そこに優劣は無かったハズなのに



そんな自分が今では一人の女性を特別な存在として認識している事実が、臨也にとっては不思議で仕方なかった



まぁ平和島静雄の様に、どうしたって愛せないイレギュラー要素もいるのだからその逆もまたありえると言う事なのだろう



「……あぁ…、そうか…」



臨也がぽつりと何かを納得したように呟くと、試着室のカーテンが勢い良く開かれが臨也を呼んだ



「臨也臨也、どうかな?」



そう言って先程の服を身に着けたが嬉しそうに笑って臨也に尋ねる



「うん、良く似合ってると思うよ」



「えへへ、じゃぁこれ買っちゃおうかなぁ」



そう言ってスカートの裾をひらりと掴みながら照れた様にはにかむを見て、臨也は頷くと店員を呼んだ



「すいません」



「はーい、どうされました?」



「この服このまま着て行っちゃうんで、タグとか切って貰えます?」



「ぁ、かしこまりました。それでは少々お待ち下さいね〜」



店員がそう言ってぱたぱたとレジへ向かうと、は慌てたように臨也に尋ねた



「じ、自分で買うよ!?しかもこのまま着て行くつもりとか無かったよ!?」



「遠慮しなくて良いよ。似合ってるんだし、デートと言うからには普段と違う服装の方が雰囲気出て良いでしょ?」



「それはそうだけど…」



臨也の言い分に釈然としない様子でが言い淀むと、店員がハサミを片手にやって来た



「それじゃぁタグ切っちゃいますね」



「ぁ、はいっ」



「お会計はレジで承るので、この値札を後でレジまでお願いします」



「はい」



「着ていたお洋服は袋に入れちゃって良いですか?」



「ぉ、お願いします」



結局、店員に促されるがままに試着室を出たは、臨也と共にレジで支払いを済ませて店を後にした



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「全く、相変わらず突拍子も無い上に自分勝手なんだから…」



新しいワンピースを身に着けたは不満そうに呟くが、その表情は何処と無く嬉しそうに見える




臨也はそんなの横顔を満足そうに見つめると、の右手に自分の左手を絡めた



「…何か、今日の臨也変」



「ラブラブなデートしたいって言ったのでしょ?」



「それはそうだけどさ」



「何か不満?」



「不満じゃないけど…、」



「けど?」



「ちょっと、恥ずかしい…」



そう呟いて視線を反らす仕草も、照れ隠しに膨らむ頬も、時折存在を確かめるように握り返される小さな手も



の全てを愛しく感じ、僅かに早くなった鼓動を自覚して臨也は笑う



「何笑ってるの?」



「ん?別に何でも無いよ。ただ面白いなと思ってさ」



「面白いって何が?ぁ、もしかしてこの服!?まさか実は似合って無いとか!?」



「いや、服じゃなくてが」



「ぇ?私??」



きょとんとした顔で首を傾げるの手を握ったまま、臨也はその手を自分の口元へ運ぶと軽く手の甲に口付けた



「好きだよ



「っは…!?」



あまりにも唐突な言葉にが硬直して臨也を見上げると、臨也はの手を離して再び歩き出す



そんな臨也の後を慌てて追い掛けながら、は臨也に向かって混乱した様子で尋ねた



「な、何なの急に」



「何が?」



「何がって、だから、その…、急に好きとか……」



「別に、そう思ったから言っただけだよ」



「ぃ、いつもは頼んだって言ってくれない癖に…!!」



「頼まれて言うのは嫌なんだよねぇ」



「そんな事言って自分は私に散々言わせるじゃん」



「そうだっけ?」



「っとに、清々しい程に自分勝手なんだから…」



赤い顔のまま悔しそうに独り言を呟くに歩調を合わせながら、臨也は聞こえない振りをして上機嫌で歩くのだった












「ねぇ、もちろん観覧車も乗るんでしょ?」



「ぇ?あぁ、うん。お台場来たからには乗りたいけど…」



「それじゃぁ行こうか。あぁそうそう、どうせだから頂上の所でキスもしようか?」



「……やっぱり今日の臨也、変…」



「俺を変にしたのはだけどね」



「どう言う事?」



「内緒」











- END -