恋と言う物が視認出来るなら

それはきっと小さくて柔らかくて丸い物だろう

手の平に乗る位の大きさで、人によって形は変わって

最初は酸っぱくて青くて食べられた物では無いけれど

機が熟す程に赤くなって甘くなって、食べ頃を迎える

そう

恋とはきっと、苺みたいな物だ



「あぁ、簡単に潰れる所とかそっくりだよね」

「それは…あまりにも酷すぎるよ……」



折角の乙女チックな私の持論をいとも容易く叩き潰したのは、折原臨也と言う一人の男

私はそんな彼のファンの一人で、平たく言えば単なる知り合い程度の間柄である



「そんな下らない持論を展開する暇があるんだったら、シズちゃんの弱味の一つでも握って来てよ」

「臨也が出来ない事を私なんかが出来る訳無いでしょうが…」



私がそんな台詞を一蹴すると、臨也はPCデスクから立ち上がって私の座っているソファへと歩み寄った



「俺の信者名乗りながら俺の意見に反抗するのは君だけだよ」

「間違えないで。私は貴方のファンであって、信者じゃ無いんだから」

「ふぅん…、まぁ俺にとっては同じ事だけどね。アンタも、他の子も」

「別にそれでも良いよ。ファンなんて物は、憧れの人の姿を近くで見られればそれでもう幸せなんだから」



私は胸を張って答えながら、臨也が座れるようにソファの端に寄る

臨也は私が空けたスペースに当然のように座り、机の上の資料をガサガサと漁りながら私に声を掛けた



「苺がどうとか言ってたけど…、恋人とか居た事あるの?」

「もちろんあるよ?今は居ないけど作る気はあるし、今だって彼氏候補は何人か居るんだから」



両手を組んでまだ見ぬ未来の彼氏に思いを馳せながら答えると、臨也が不思議な物を見るような目でこちらを見て来た



「こんな所に入り浸ってる割にやる事はやってるんだ」

「当たり前でしょ。仕事だって毎日行ってるし、友達とだって遊ぶし、男性とデートだってするよ」

「ふぅん」

「私はあくまでも一般的な生活を送る上で、折原臨也と言う人物のファンをしているだけだもの」

「ファン、ねぇ…」



臨也はいくつかの資料に目を通しながら、私の様子を伺うようにちらりとこちらを見る



「で、今度の恋は実りそう?」

「うん。会社の先輩の紹介なんだけど、優しそうだし結構良いかもって思ってる」

「もしその人と付き合う事になっても此処には来る訳?」

「回数は減るだろうけど別に貴方のファンを止める気は無いからね」

「そう」

「それとも、彼氏が出来たら来ちゃ駄目?」

「いいや?アンタに彼氏が居ようが居まいが俺には関係無いからどっちだって構わないよ」

「良かった」



臨也の言葉に私はホッと胸を撫で下ろし、その後もぽつりぽつりと雑談をして、その日はそれでおしまい

私にとって幸せな時間はあっという間に過ぎ、22時を回る頃に私は事務所を後にした

こんな風に私が彼の事務所を訪れるのは、毎週水曜日の18時半と決まっていた

と言うのも、私の所属する会社では毎週水曜日は残業をしてはいけない日と定められていて、その日だけは定時で上がれるからだ

逆に言えばその日以外は容赦なく残業するハメになるのだが、それはまぁ今回の話には関係無いので置いておく

ともかく、私が折原臨也に会えるのは週に一度だったのだ

そしてそれ以外の日は、臨也にも話した通り普通の人と何ら変わりなく仕事をしたり友人と会ったりしていた訳である

もちろん、異性との接触もそれなりにあった

臨也と言う者がありながら他の男と接触するのか、とは思わないで欲しい

だって彼が私の恋人になる確率なんて、ゼロに等しいのだから



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さて、

そう言う訳で臨也と会話をしたのが一昨日の事で、本日は金曜日

今夜は前回話に出た、現在良い雰囲気になっている男性との食事が予定されていた

これまで何度か彼を含め数人で食事をした事はあったけれど、二人きりはこれが初めてだった



「ごめんなさい、待ちました?」

「ううん、僕もさっき着いたばかりだから」



こんなベタで甘酸っぱいやり取りも、恋愛初期の醍醐味だろう



「それじゃ行こうか」

「はい」



そう私に声を掛ける彼に笑い掛け、二人で駅から少し歩いた場所にあるレストランに入る



「最近仕事はどう?」

「そうですねぇ、今は大分落ち着いたんですけど、先週はかなりバタバタしてました」

「そっちも月末は大変そうだよね」

「まぁ先輩方に比べたら私の忙しさなんて全然ですけど」

「そんな事無いよ、さんうちの課でも評価高いよ?」

「本当ですか?嬉しいなぁ」



彼が業務上お客である事から、会話の内容は大体仕事がメインとなる

それでも彼との会話は何の問題も無い程穏やかで普通で、私は彼とならまぁお付き合いしても良いかなと考えていた

彼も恐らく私に好意を持っているし、後はもう実った恋が熟すのを待つばかりだった



「今日はご馳走様でした。とっても楽しかったです」

「うん、僕も楽しかった。良かったら、また誘っても良いかな」

「もちろんです、楽しみにしてますね。それじゃぁまた」

「おやすみ」

「おやすみなさい」



挨拶を交わして、私は新宿に向かう電車に乗り込む

彼は私が電車に乗った事を確認し、反対のホームへと歩いて行った

10分程電車に揺られて新宿駅に到着する

改札を出て地上に上がり、帰宅する為に道を歩く

途中で臨也の事務所に向かおうかと思ったけれど、結局私は真っ直ぐに家へと帰った

どうせ今行っても別の信者の子が居るだけだ

帰宅して、シャワーを浴びて、明日の支度をしながらぼんやりと考える

私にとって臨也は今流行りの"会いに行けるアイドル"程度の存在で、

臨也にとって私は毎週勝手に事務所に来る追っかけの一人程度の存在だろう

そこには大きな隔たりがあって、決して一般人とアイドルが結ばれる事は無い

そもそも、ファンになるにあたってそのアイドルと本気で恋愛が出来ると考えてる人間なんてそう居ない

だから大多数の人は様々な芸能人のファンをしながらも普通に恋人が居たり結婚したりしている

つまり私も同じ事で、私は臨也と恋仲にはなれないのだから他に相手を探すしか無いのだ



「だから、仕方無いんだよね…」



布団の中で独り自分に言い聞かせるように呟き、目を閉じた



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それから数週間経ったある日の月曜日

事態は急展開を見せた



「…ぇ?」

「本当にごめん。もう、さんとは会えないんだ…」



例のお客さんの彼から、順調に進んでいたはずの関係を終わりにしようと告げられたのだ

まだ、付き合ってすら居なかったのに



「何で…ですか?」

「ごめん…」



理由を尋ねても、彼は謝るばかりで埒が明かない



「解りました、残念ですけど仕方ないですよね…」



私は静かにそう答える事しか出来なかった

そもそも付き合う前の段階だったのだから、別に彼が謝る事は無い

それでも、やっぱり後少しでそうなる事を予感していただけに、今回の話は急すぎて少し落ち込んでしまう

何とか理解した振りをして彼と別れ、私はふらふらとそのままの足で臨也の事務所へと向かった

今日は水曜日では無かったし時間は22時を越えていたけれど、そんな事考えていられなかった

もし他の誰かが居たら、と言う事すら考えられず、私はただ夢中で臨也の事務所に向かった



「やぁ、どうしたの?」



私を迎え入れた臨也は、いつも通りPCデスクに向かっていた

どうやら他の信者の子も今日は居ないらしい

私は内心で安堵しながら、目の前の臨也をじっと見つめた

臨也はそんな私を不思議そうに眺めながらもいつもの調子で尋ねる



「水曜日以外に来るなんて珍しいじゃない、何か急用?」

「…別に、急ぎでは無いんだけど……」

「とりあえず座ったら?今コーヒー入れてくるから」

「うん、ありがと…」



臨也はそう言うと奥にあるキッチンスペースへと消えた

私は臨也に促されたとおり、ソファに座って臨也を待つ

暫くしてマグカップを両手に持った臨也が私の隣に座り、私はカップを受け取った

臨也が淹れてくれたコーヒーを飲んで落ち着いた私は、やがてぽつりと呟く



「………振られちゃった…」

「振られたって、例の先輩の紹介で会ったお客さんの彼?」

「うん…」

「どうして?」

「解らない…。ついこの間までは結構良い雰囲気で、次に会う時はもう告白間近かなとか思ってたのに…」



私は俯いてカップの中で揺れるコーヒーを見ながらため息を吐いた



「食べる前に潰れちゃった訳だね」

「ぇ?」

「アンタが言ったんでしょ、恋は苺のような物だって」

「あぁ…」



臨也の口から出た言葉を聞いて、私は以前の自分の言葉を思い出す



「食べ頃だったハズなんだけどな…」

「まぁそう言う事もあるでしょ。食べようとしたら腐ってたとか、虫が喰ってたとかさ」

「まぁ…、確かにその時にならないと解らない事ってあるけど…」

「でしょ。だからもうそんな男は忘れて次に行きなよ」



同じようにコーヒーを飲みながら、臨也は落ち着いた様子で私に話す



「そうだよね…、いつまでも気にしてても仕方ないもんね…」



私は臨也の意見に同調するように呟いて、テーブルにカップを置いた



「まぁもしもまた振られたら遠慮なく此処に来れば良い。コーヒー位は出してあげるからさ」

「臨也…」

「ははっ、そんな風に名前を呼ばれるのは久しぶりだね」

「…そうだっけ?」



そう言って笑う臨也に、私は素知らぬ振りで首を傾げる

本当の所、普段は意識して臨也の名前を呼ばないようにしていた

それは臨也が私の事を名前で呼ばず、"アンタ"や"君"などと呼ぶ事に対する精一杯の対抗意識だったが、きっとそんな事はお見通しなのだろう



「たまに呼ばれると新鮮でいいね」



そんな事を言いながらも、彼自身は決して私の名前を呼んではくれない

助手の女性や、他の信者の子の名前は平気で呼んでいるのに、どうして私の名前だけは呼んでくれないのだろうか…

本人に聞いてもきっと答えてはくれないだろうから聞かないけれど、実の所少しだけ寂しいと思うのも事実だった



「ま、そう言う事だからさ。とりあえずは次の恋が育って実るのを気長に待ちなよ」

「うん…、そうする。ごめんね、急に訪ねて来て愚痴吐いて…」

「気にしないで。俺も今日は暇だったしね」

「そっか、そう言えば誰も居ないもんね」



私が事務所内を見渡して呟くと、臨也はコーヒーを飲み干して空のカップをテーブルに置いた



「別に俺が毎日呼び寄せてる訳じゃないからね。誰も来ない日だってある」

「そうなの?」

「もちろん、毎回決まった曜日や時間に来るのなんてアンタ位なもんだよ」

「そうだったんだ…、何かすいません…」



私は毎週欠かさずに会いにきている事が今更恥ずかしくなり、誤魔化すように笑って謝る

臨也は赤く染まる私の顔を眺め、やがてふっと笑う

その笑顔はいつもの言動に裏のある臨也の表情とは少し違っているようで、私は俯いた

こんな風に、たまに優しくされたり、違う表情を見せられたり、微笑まれたりすると、私の心は苦しくなるばかりだ

折角臨也以外の男性に目を向けようとしているのに、それがしたくなくなる

ずっと臨也を見ていたい

ずっと臨也の傍にいたい

気を抜けば考えるのはそんな事ばかりで

私はその日、帰宅した後に少しだけ泣いた



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



そんな出来事から更に数週間

私は相変わらず毎週水曜日には臨也の事務所を訪れていた

毎日の過ごし方も大体変わらず今まで通り

一つ変わった事があったとすれば、私が臨也の事務所に行く回数が少しだけ増えた事

その理由は、何故かは解らないけれどこの所振られる事が増えたからだった

今まで付き合ってから別れる事はあっても、付き合う前の段階で振られた事など無かったのに

あの日彼に断られてから今日まで、私は誰とも付き合うに至らず毎日を過ごしていた

自分が何か問題がある行動をしているとも思えないのに、どうしてなのだろうか

臨也風に例えるならば、熟して食べ頃になった苺が片っ端から潰されているような感じだ

私は振られる度にそれなりに凹み、臨也の事務所で愚痴を吐いたり相談したりしていた

しかし実際の所そうして臨也と話す時間が楽しく、今ではむしろ振られても良いやと思うまでになっていた



「あーぁ。何か、もう嫌になっちゃった」



今日も、私は臨也の事務所のソファに我が物顔で座っている



「お疲れさん、君も懲りないねぇ」

「煩いなぁ」



薄く笑う臨也の言葉に頬を膨らませながら、私は両手に持っていたカップをテーブルに置く

テーブルの上には何故か手の平サイズの瓶が置いてあり、私はその用途不明の空の瓶を見つめながらため息をついた



「でも、もう暫くは一人でいいかなって思ってきたかも…」



そんな独り言を呟いて、背もたれに体重を預けながら事務所の天井を仰ぐ

今日は月曜日で突然の訪問だったけれど、今日も事務所には臨也以外誰も居なかった

以前までは水曜日以外はそれなりに信者の子の存在が見え隠れしていたのに、最近では全く姿を見ない



「そう言えば…、今日も誰も居ないんだね」

「そりゃまぁ、呼ばないようにしてるから」

「どうして?」



私が尋ねると、臨也は笑って答えた



「何処かの誰かさんが振られたーって愚痴りに来るからねぇ」

「…それって私?」

「それ以外に誰か居る?」



逆に尋ね返されて、私は臨也の顔を見たまま固まる

臨也が私の為に他の子の来訪を拒んでいる

その事実はとても嬉しかった

嬉し過ぎて心臓が締め付けられる程だ

だけど一つ、どうしても引っかかる点があり素直に喜ぶ事が出来なかった



「…私が来ない日は普通に他の子を呼んでるんだよね?」

「前も言った通り別に俺が呼んでる訳じゃなくて勝手に来るだけだけど、まぁアンタが居ない日は大抵他の子が来てるね」

「でも私、来る前に連絡とかしてないよね」

「そうだね」

「じゃぁ…、どうして私が来る日が解るの…?」



私が恐る恐る臨也に問い掛けると、臨也は相変わらず笑みを浮かべたまま答えた



「そんなの、アンタが振られるように仕組んでるのが俺だからに決まってるじゃない」

「……ぇ…?」

「あぁ、本当に気付いて無かったんだ?」



意外そうに呟いて、臨也はテーブルの上に置いてあった空の瓶を手にした



「アンタが最近振られっ放しだったのは全部俺のせいだよ」

「俺のせいって…」

「最初の奴は裏で横領に関わってたからバラされたくなかったら諦めろって言ったら慌てて逃げていったし、
次の奴は金に困ってたみたいだったからちょっと融資してあげたらすぐに身を引いてくれたね」



臨也は一つ一つ説明しながら、楽しそうに笑って瓶の蓋を開ける



「そんで更に次の男は別の子けし掛けたらそっちにコロっとそっちにいっちゃってさぁ。
まぁもちろんその子と付き合える訳ないから結局そいつは今も独り…。良い気味だよね?」

「………」



臨也の言葉を聞きながら、私は今までに振られた男性の事を思い出していた

言われてみれば、後一歩で付き合えると言うところまで仲良くなったにも関わらず振られるなんて

誰かが裏で操っていなければ普通では中々ありえない事だ

私はそれまで自分に原因があって振られたとばかり思っていたので、その事実に妙に納得すると共に安心してしまった

そして安心すると同時に臨也への怒りが込み上げる

今まで散々愚痴を聞いては色々とアドバイスしてくれた癖に、それが全部嘘だったなんて

あまつさえ人の恋路を邪魔した挙句、こんなにも平然としているなんて…

好き勝手に引っ掻き回された臨也への怒りと、それに気付けなかった自分への怒りで、私は言葉も出ず臨也を睨むように見つめた

臨也はそんな私を見ながら瓶の蓋をテーブルの上に置いて問い掛ける



「怒った?」

「怒ったに決まってるでしょ!?何で私の恋路を片っ端から邪魔するのよ!!」



悪気も反省も微塵も感じられない臨也の態度に、思わず私は声を荒げる

しかし臨也は満足そうに笑うと、ぐっと私との距離を詰めた



「ねぇ、アンタはジャムの作り方って知ってる?」

「は?急に何を…」

「良いから答えてごらんって」

「答えてごらんってそんな…」



急に話をはぐらかされた私は怒りも忘れて困惑するが、臨也は相変わらず平然としている



「ジャムって、ぇえと…、果物潰して、大量の砂糖にまぶして暫く置いて…、後は鍋で煮詰めるだけでしょ?」

「その通り。つまり苺ジャムを作る為にはたくさんの苺を潰す必要があるんだよ」

「苺…」



"恋とは苺のようなもの"

以前、私が臨也にそんな話をした事を思い出した

そして私が嬉々として語った恋についての持論を鼻で笑ったのだ



「言ったでしょ?簡単に潰れる所もそっくりだよね、って」

「…言ってたけど……でもだからって何で…」

「何で私の苺を、もとい恋を潰しまくったのかって?そんなの決まってるじゃない」



臨也は私の台詞を先回りして奪い、瓶を私に手渡した

思わず両手で受け取った私を、臨也がソファに押し倒す



「俺は甘くて美味しいジャムが食べたかったんだよ」



そんな台詞を口にしながら、臨也は妖しく微笑む



「まぁそう言う訳で潰した苺はたくさん用意出来た訳だし、後は大量の砂糖を入れるだけだ」

「臨…」

「好きだよ、



初めて名前を呼ばれた事に私が驚く間も無く、臨也は私の身体を抱き締めた

臨也の腕は華奢な割に力強く、かつてない程の距離に私の体温は急激に上がって行く

このままでは身体中の血液が沸騰してしまうような気さえする

私は臨也の肩越しに視界に入る天井を見上げながら、驚いた表情で固まるしかなかった



「俺はずっと君の事が好きだったのにまるで気付かないんだから」



臨也は何処か呆れた様子で囁きながら、私を抱き締める腕に力を込める



「因みに、が俺の事が好きで好きでしょうがないって事は最初から知ってたんだけどね」

「だ、だったらそんな回りくどい事しなくても…」



私が抗議するように言うと、抱き締められていた身体が離れすぐ目の前に臨也の顔が映った



「俺が普通に"好きです"なんて告白して、アンタ信じる?」

「…………信じない、かも…」

「だよねぇ。まぁ俺の事が好きで好きで仕方ないのに他の男と付き合って忘れようと頑張ってるアンタの姿は見てて面白かったよ」



そう言って笑って見せた臨也の顔は相変わらず人を小馬鹿にしたような顔だったけれど

何処かいつもと違って優しい、甘い雰囲気がして

臨也と言う空っぽの瓶の中を、私でいっぱいにするのも良いなぁなんて思ってしまった



「悪趣味過ぎるよ…」

「そんなの今更じゃない」



恋と言う物が視認出来るなら

それはきっと小さくて柔らかくて丸い物だろう

手の平に乗る位の大きさで、人によって形は変わって

最初は酸っぱくて青くて食べられた物では無いけれど

機が熟す程に赤くなって甘くなって、食べ頃を迎える

そんなたくさんの苺を自分好みに甘くして、好き勝手に煮詰めて瓶に詰めてしまう

折原臨也とは、そんな男だ

そしてそんな男に捕まった私は

きっと世界一の幸せ者だ






-END-