何見てんの?」

「パソコンのカタログ」

「ふーん」

「………」

「………」

「ねぇねぇ臨也くん」

「何?」

「私新しいパソコン欲しい」

「新しいパソコン?」

「そう、このページのやつ」

「…の目の前にあるパソコンは何」

「これは一つ古いモデル」

「まだ使えるんでしょ?」

「でも新しいの欲しい」

「勝手に買えば?」

「そんなお金無いよ」

「買えって事?」

「遠まわしに言うとそんな感じ」

「遠くないよね、直球だよね」

「煩いなぁ、いいから買ってよ」

「…俺が言うのも何だけどさぁ、はパソコンより買うべきものあるんじゃないの?」

「へ?」

「前々から思ってたんだけど何その服、何処行けばそんなセンス皆無の服売ってる訳?」

「これは誇り高き庶民の味方しまむらに売ってたやつだよ」

「……」

「何その"ありえねぇ〜…"みたいな顔」

「うん、正解だよ。ありえねぇ〜って思ってたよ」

「酷いなぁ、自分だって毎日同じ服着てる癖に」

「違うから。俺のは似てるだけで全部少しずつ違うしパーカーだって丈の長さが微妙に違うから」

「でもセンスの有無で言えばどっちもどっちじゃん」

「シンプルと適当を一緒にしないでくれる?」

「どっちでもいいよ、服よりパソコンが欲しいんだよ」

「…この前新しい携帯買ったよね、俺が」

「あぁ、アンドロイドね。あれはちょっと動作が遅いんだよね」

「その前にアイフォン買ったよね、…俺が」

「買ったね。念願の二台持ちだよ、アンドロイドがもさいから丁度良い感じだよ」

「…普通さ、二台持つならスマートフォン1台と普通の携帯1台じゃないの?」

「そんな普通は知らん」

「大体大した仕事もしてない癖に携帯二台持ちとか意味不明だよね」

「そんなこと無いよ、結構そう言う人いるよ」

「例えば?」

「ぇーと…、ホラ、愛人居る人とか二股掛けてる人とか、裏でヤバい事やってる人とか、折原臨也とか」

「全部ロクでも無い人間じゃないか…って、俺を同じカテゴリに入れるな」

「だって臨也くんもいくつか携帯持ってるじゃん」

「俺のは職業柄仕方ないの」

「人の弱み握って悪どい事してるだけでしょ」

「大して稼ぎも無い人間にどうこう言われる筋合いは無いよ」

「くっ…。臨也くんの成金野郎!!」

「それ別に貶せてないからね」

「友達居ない癖に!!」

「話に関係ないとこで反撃しないでくれるかな」

「まぁとりあえずこの話は置いといてさ」

「置くなよ」

「パソコン欲しいなぁ」

「会話ループする気?」

「買え」

「ド直球だね」

「買って下さい」

「何か誠意が足りないんだよねぇ」

「臨也くんのケチ」

「違うよね、そこはもっと下手に出る場面だよね」

「いいよいいよ、もう臨也くんと遊んであげないから」

「毎日人ん家押しかけて来たかと思えば勝手にソファ占領してずっとパソコンに向かってるような子と遊んだ覚えが無いんだけどね」

「そんな事言って私が来なくなったら寂しい癖に」

「静かに仕事が出来て快適だろうなぁ」

「そう言いつつ鍵締めないじゃん」

「いつの間にか合鍵持ってたのは何処の誰だっけ?」

「もう、あぁ言えばこう言うんだから」

「同じ言葉を倍にして返すよ」

「よし、それじゃぁそろそろ行こうか」

「何処に?」

「パソコン買いに」

「行かないよ?」

「ここは雰囲気に流されて"仕方ないなぁ"ってなるとこなのに」

「ならないから」

「そっか」

「ようやく諦めた?」

「うん、今日はいいや。明日ね」

「明日も同じ会話を繰り返す気?」

「臨也くんが折れるまで繰り返す所存ですよ」

「うゎ、超迷惑」

「ふふふ」

「ぁ、そうだ」

「ん?どしたの?」

「服買いに行こう」

「はい?」

「そのダッサイ服捨ててもっとまともな服を揃えようって言ってるんだよ」

「ぇーいいよ勿体無い…」

「デジモノとっかえひっかえの君が言う台詞?」

「それとこれとは話が別ですー」

「別じゃないから。いいから行くよ」

「えぇ〜」

「…ついでにパソコン買ってあげるから」

「よし行こうか臨也くん、ホラホラ置いてっちゃうよ?」

「………はぁ」

「待ってろ愛しのMyハニ〜」

「今のハニーはどうするのさ」

「バックアップ用にでもするよ」

「本体をHDD代わりって…」

「何処行く?ソフマップ?ドスパラ?正規品でいいならヨドバシ?」

「駄ー目。まずは服から」

「…お洒落しても行くとこなんて電気街か臨也くんの家なんだから服とかどうでもいいのに」

「大丈夫、今後相応しいとこに連れて行くから」

「ん…?どういう事?」

「そう言う事」

「答えになってないよね」

「はいはい、いいからさっさとタクシー乗って」

「若い内からタクシーとか乗ってると足腰弱るよ?」

がまともな格好なら俺も一緒に歩きたいんだけどね」

「何気に物凄い酷い事言ったよね」

「ぁ、すいません池袋までで」

「無視したよこの人。って言うか何でわざわざ池袋?」

「別の用事があるからついでにね」

「静ちゃんでもからかうの?」

「まさか。出来れば会いたくないよ」

「私は会いたいなぁ」

「は?って静ちゃんと仲良いっけ?」

「良いかは解らないけど悪くないよ、静ちゃんて呼ぶと怒られるけど」

「何それ、いつの間に?」

「新羅くんの家に遊びに行った時にちょいちょい顔合わせる事があってね」

「そっか。新羅の家行くの金輪際禁止ね」

「ぇ、普通に横暴なんだけど」

「いいから。パソコン買わないよ?」

「臨也くん、男の嫉妬は見苦しいぞ」

「嫉妬じゃない」

「じゃぁ何でさ」

「静ちゃんとの接触が増えると俺が静ちゃんに会う確率が上がる」

「その計算式おかしいって」

「とにかく静ちゃんとの接触は禁止」

「解ったよ、メールにしとくよ」

「はぁ?アドレスも知ってる訳?」

「この前交換したんだ。メールなら別にいいよね?接触の機会は増えないし」

「駄目」

「何でよ」

「駄目なもんは駄目。俺と居る時はもちろん居ない時も静ちゃんなんかにメールしてるとか面白くないから」

「臨也くん、それ嫉妬って言うんだよ」

「言わない」

「認めなって」

「認めない」

「じゃぁメールしちゃお。そんで今度遊ぶ約束もしちゃおうっと」

「………」

「あはは、嘘だよ嘘嘘。そもそもメルアド知らないし」

「は?」

「静ちゃんと何回か顔合わせてるのは本当だけど、メルアドなんか交換してないよ」

「本当に?」

「本当だよ。臨也くん以外の人とメールするの面倒だし」

「ふーん」

「ぁ、もしかしてちょっと嬉しい?」

「別に?」

「臨也くんは素直じゃないなぁ」

「煩いよ」

「ぁ、着いた着いた」

「全く…」

「それじゃぁレッツゴー」

「はいはい」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「って感じでこんな服着せられててね、何か疲れちゃった」

「そう。大変だったわね」

「何か変だよね?」

「そうかしら、似合っていると思うけど」

「えへへ、ありがと」

「ところで、貴方まさかあの男と付き合ってるの?」

「あの男って…、波江さんの上司じゃん」

「いいのよあんな奴はその程度の扱いで」

「あはは、臨也くん嫌われてるなぁ」

「で、どうなの?付き合ってるの?いないの?」

「ないよ」

「あらそうなの?」

「うん。でもきっとこのままずっと一緒に居るよ」

「…良く解らないわ」

「波江さんも誠二くんと結婚しないけど一緒に居たいでしょ?」

「当たり前じゃない、何なら結婚もしてみせるわよ」

「うん、まぁ倫理や法律は置いといて、私もそんな感じだよ」

「どうして告白しないの?」

「始まったら終わっちゃうでしょ」

「哲学的ね」

「知的でしょ」

「あらそろそろ誠二に電話しないと」

「波江さんまで無視とか酷い」

「て言うかあの男は?一緒に帰って来なかったの?」

「臨也くんなら野暮用があるって言うから池袋においてきたよ」

「置いてって…新しい服買って貰ってデートしてたんじゃないの?」

「だって早く新しいパソコンいじりたいし」

「格好が変わっても中身がそれじゃ意味ないわね」

「臨也くんにも同じ事言われた」

「一緒にしないでちょうだい」

「まぁそんな訳で私は今から新しいハニーを堪能しなきゃなんだ」

「どうでも良いけど人間の方も相手してあげなさい」

「人間?誰?」

「だからあの男でしょ」

「…臨也くんはハニーじゃないよ?」

「同じ事よ」

「波江さん心配してくれてるの?」

「えぇもちろん。貴方が構ってやらなきゃ鬱陶しくなるだけだもの」

「自分の心配なんですね」

「当然よ」

「でも臨也くん嫉妬深いからなぁ…、正式にそういう関係になったら面倒っぽいよね」

「貴方本当にあの男の事好きなの?」

「大好き」

「…変人同士お似合いね」

「ありがと」

「じゃぁ私は帰るから、あの男に机の上の資料を片付けるよう言っておいて頂戴」

「はーい、またね」

「えぇ、また」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「おかえり臨也くん」

「ただいま、波江さんは?」

「さっき帰ったよ、机の上の資料を片付けてって言ってた」

「あぁ、もう終わったんだ、相変わらず仕事が早いなぁ」

「ねぇねぇ臨也くん」

「ん?」

「大好きだよ」

「は?」

「臨也くん、資料バッサバッサ落ちてますけど」

「突然何?頭沸いた?どっか打った?何か食べた?」

「失礼極まりないよね」

「極めて正しい反応だと思うけど、本当にどうかした訳?」

「別に?今まであえて口に出してなかったから言ってみようかなって思っただけで」

「波江さんに何か言われたの?」

「"貴方本当にあの男の事好きなの?"って聞かれた」

「それで?」

「大好きって答えて、あぁそっか好きなんだーって思って」

「そこで気付くんだ」

「まぁそんな訳でわざわざ伝えてあげてみた訳ですよ」

「恩着せがましいよね」

「まぁそれなりの価値があるからね」

「何それ」

「つまり臨也くんはお返しをくれるべきだよね」

「素直に返事をくれって言えないの?」

「素直じゃないのは臨也くんレベルですから」

「はいはい。俺もが大好きですよ?」

「何か凄い適当な感じ」

「不満?」

「それなりに」

「それじゃぁこっちにおいで」

「?」

「はい、捕まえた」

「捕まっちゃった」

「好きだよ

「うん」

「もう離してあげないから覚悟しておく事だね」

「うん」

「ははっ、が泣いてるとこ初めて見た」

「馬ー鹿」

「はいはい、それじゃぁ新しいハニーは置いといて今夜は俺と遊ぼうか」

「何それエロい」

「よし、まずはその減らず口を塞ごうかな」

「んぅっ」

「愛してるよ」

「私も」

「駄目、ちゃんと言って?」

「イザヤクンアイシテルワ」

「俺の恋人はロボットだったんだ?」

「亜衣死手瑠」

「暴走族?」

「愛・覚えてますか」

「マクロスね」

「………」

「いい加減観念しなって」

「……してます」

「聞こえないなぁ」

「愛してます!!臨也くんの事が大好きですー!!」

「はい、良く出来ました」






『ある日の二人』