「その手をどけろノミ蟲」

「静ちゃんにそんな事指図される覚えは無いよ。静ちゃんこそ手どけたら?に怪我でもさせたらどうする気?」

「んだと!?」

「何、やる気?」

「ぇっと、あのさ…、とりあえず二人とも手を離して貰えるかな」



左の腕を静雄に、右の腕を臨也に掴まれながら、左右で言い争うには言う



「ノミ蟲が離したら離す」

「何それ、そんな事言われて俺が離すとでも思ってる訳?」

「いや、もう本当に離して貰わないと困るんだよね。此処街中だし、道の真ん中だし」



は全く要望を聞き入れる気の無い二人にがっくりと肩を落として呟く

此処は池袋にある東急ハンズの目の前

歩く自動喧嘩人形こと平和島静雄と、素敵で無敵な情報屋こと折原臨也に挟まれているのは何の肩書きも持たない一般人の

敵に回してはいけない人物の中でも特に危険な二人

しかも同時に鉢合わせた場合は怪我人が出てもおかしくないレベルの二人が、今まさに一触即発の雰囲気を醸し出している

それでもいつもの様に生死を掛けた鬼ごっこが始まらないのは、二人の間にの存在があるからに他ならなかった



「大体何でお前が池袋に居るんだよ?」

「そんなのに会いに来たからに決まってるでしょ?そうで無ければ静ちゃんみたいな野蛮人が居る場所にわざわざ足を運ばないって」



売り言葉に買い言葉

どうあがいても仲良くは出来ない二人だが、それでもお互いにその場から離れようとはしない

街の人々が何事かと立ち止まって見守る中、は大きなため息を一つ吐くと二人に捕らえられている両腕を勢い良く振り解いた



「兎に角移動しようよ。此処じゃ皆の邪魔になるから」



はそう言うと二人を置いてすたすたと歩き出す

二人はそんなの後を追いながらも、言い争いを続けた



「静ちゃんは着いて来なくて良いのになぁ」

「ふざけんな!!!!」

「おぉ怖。怒鳴る事でしか感情の表現が出来ないなんて本当に可哀想だ。ねぇ?」

「まぁ臨也くんが怒らせなきゃ良いだけの話だと思うけどねぇ」

「殺す、殺す殺す殺す殺すぜってぇ殺す!!!!」

「はいはい静雄くんも物騒な事言わないの」



問題児二人を従えて痛む頭を押さえながら、は南口公園へと向かった



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「で、珍しく二人揃って私に何の用だったの?」



公園に辿り着き、周りに人気が無い事を確認してからは二人に尋ねる



「何って、今日誕生日でしょ?だから俺はお祝いしようと思って色々用意して来たんだよ」

「そうだったんだ…。もしかして静雄くんも?」

「あぁ」



の言葉にこくりと頷いて、静雄はサングラスを上げた

確かに言われてみれば二人ともそれぞれ紙袋を手に提げている

そんな二人の答えを聞いて、は苦笑する



「それはとっても嬉しいんだけど、往来で私を挟んで喧嘩するのは止めて欲しいかったな」

「ごめんね。俺としてはと二人きりでお祝いしたかったのにとんだお邪魔虫が現れたもんだからさ」



そう言いながら臨也はの肩を抱く



「虫はてめぇだろうが」



しかしすかさず静雄が臨也からを引き剥がし、自分の方に身体を引き寄せる

誰がどう見ても三角関係と言う奴だったが、は困ったような諦めたような顔で二人のやり取りを眺めていた

ふと、静雄の相手も飽きたらしく臨也がに話し掛ける



「ねぇ、俺今日の為にル・ショコラ・ドゥ・アッシュのスイーツを取り寄せたんだけど」

「ぇ、あのトリュフ一粒千円超えの!?」

「うん、他にもキルフェボンのタルトとか、村上開新堂のクッキーとか…」

「村上って…、あそこ議員とか御用達の会員制洋菓子店でしょ?」

「そうそう」

「どうやってそんな…」

「そりゃぁ俺位の情報屋ともなればこれ位簡単だよ」



の疑問に臨也は得意げに答えるが、そんな臨也を見ながらは苦笑した



「臨也くんの場合購入方法が正規ルートじゃ無さそうだよね…」

「酷いなぁ、折角が甘い物好きだから頑張って取り寄せたのに…、いらないなら波江さんにでもあげちゃおうかなぁ」

「い、いるよ!!いりまくるよ!!」

「じゃぁ今日は静ちゃんは放っといて俺と一緒に過ごしてね」



焦るに向かい、にっこりと笑いながら臨也は交換条件を言い渡す



「よし殺す、やっぱり殺す、今すぐ殺す!!!!!!!!」



が返事をするよりも早く、静雄は寄りかかっていた電灯を引き抜き臨也に向かって投げつけた

電灯はの目の前を通り過ぎ臨也のすぐ傍に着弾する



「おっと、大丈夫?」

「ぇ、あぁうん、私は大丈夫だけど…」



臨也は慣れた様子で電灯を避けると、の腰に手を回して呆れ口調で笑う



「これだから単細胞は困るよねぇ。に当ったらどうするつもりなんだか」

「大丈夫だよ。静雄くん私の事狙ってる訳じゃないんだし」



確かに少々危なかったが、いつもの事なのでは特に驚く事無く臨也の問いに首振って答える

そんな中、静雄は危うくにまで被害が及びそうになった事に気付くと我に返った様に動きを止めた



「…ぁ…悪い、俺……」



両手を握り締めて視線を反らす静雄の様子を見て、は臨也の手を解くと静雄に近寄る

そして俯いている大きな身体を見上げながら、は静雄に語り掛けた



「大丈夫だよ静雄くん。いつも何だかんだでコントロール出来てるし、私が怪我した事なんて一度も無いんだから」

「………」

「少しずつだけど制御出来るようになって来てるんでしょ?怒る回数も前よりは減ったんだし、落ち込まなくて良いよ」

…」



こうしてが落ち込む静雄を慰める様子を見ながら、臨也が面白く無さそうに呟く



「甘やかすとロクな事無いと思うけどねぇ」

「いいの。静雄くんはわざとじゃないんだからそこ責めても仕方ないでしょ」

「ふぅん…。じゃぁ俺の事も甘やかしてよ」



臨也はそう言うが早いか、静雄を見上げるを背後から抱き締めた



「おゎっ!?」

「いやぁ落ち着くなぁ」



驚くの肩越しに静雄を見てにやりと笑うと、臨也はの髪に触れる

はそんな臨也を横目で眺め、呆れた様子で声を掛けた



「臨也くんがそうやって静雄くんを挑発するような事ばっかりするから…。静雄くん、怒っちゃ駄目だからね」

「あぁ、解ってる…」

「ほら臨也くん、いい加減離して」

「だってってば静ちゃんばっかりで全然俺の事構ってくれないからさぁ」



臨也はいかにも寂しそうにの耳元で囁く



「ちょっ…臨也くん!!」

が嫌がってんだからさっさと離れろよ糞ノミ蟲!!」

「解った解った。仕方ないなぁ…、それじゃぁが俺の事愛してるって言ってくれたら離れてあげるよ」

「はぃ!?」

「何頭沸いた事言ってんだ…、本格的に死んどくか!?あぁ!?」

「ロクにアプローチも出来ないヘタレは黙っててくれる?」

「…っ!!」



吼える静雄に向かっての背後から冷ややかに言い放ち、臨也は改めてに話し掛ける



「別に本気じゃなくて良いんだって。嘘でも良いから聞きたいなぁ」

「嘘でもって…」

「駄目?」

「ぅー…、駄目って言うか何て言うか……」



臨也に押されが困り果てていると、ふいに静雄が一歩近寄りの身体を持ち上げて臨也から引き剥がした



「ぅわっ」



まるで子供の様に軽々と持ち上げられたは、そのまま静雄にお姫様抱っこされる形になる

いくら静雄が力持ちとは言え、急に抱きかかえられたは慌てて静雄の首に腕を回す

静雄はそんなの頬に軽く口付けて、勝ち誇った笑みを浮かべて臨也を見下ろした



「し、静雄くん!?」

「誰がヘタレだって?」



突然の事に思わず顔を赤くするを見ると、臨也は眉を寄せて珍しく悔しそうな顔で静雄を睨み付けた



「………」

「………」



再び二人の間には緊迫した空気が張り詰める

はそんな二人を交互に見ながら、どうしたものかと考えていた



〜〜〜〜♪



すると、突如その場には不釣合いな間の抜けた音楽が鳴り響く



「ぁ、ちょっとごめんね」



それはの携帯の着信音だったようで、は一言二人に断ると静雄に抱かれたままの体勢で携帯を取り出した



「はいもしもし…。ぁ、絵里華ちゃん?うん。ぇっとねぇ、今南口公園に居るよ。ぇ?あぁそうそう、臨也くんと静雄くんも一緒なんだけどね」



電話の主は狩沢のようで、は臨也と静雄が見守る中至って普通の調子で会話を続けた



「そうなの?じゃぁお願いしようかなぁ。うん、大丈夫大丈夫。じゃぁ待ってるね〜」



やがて会話を終えたは、携帯を切り静雄に声を掛ける



「降りてもいいかな?」

「あ、あぁ…」



今までの緊張感が台無しになる程普通の調子で尋ねられ、静雄は思わず言われるがままそっとを地面に降ろす

地面に降り立ったは携帯を鞄に戻し、きょろきょろと辺りを見回した

そんなの様子を不思議そうに見ていた臨也と静雄だったが、やがて臨也が話し掛ける



?」

「ぁ、ごめんね。今の電話絵里華ちゃんからだったんだけど、今からこっち来てくれるんだって」

「どう言う事?」

「だからね、二人には言いそびれてたんだけど今日は私既に予定があるの」



がそう答えると、一台のワゴン車が公園の前に止まった



「お待たせ〜。うゎ、本当に二人とも居るし」



ワゴンから降りての元へと来た狩沢は、臨也と静雄を見ながら驚いた顔をする



「ごめんね、連絡しようとは思ってたんだけど…」

「ううん、平気平気。私達もゆまっちの買い物に付き合ってて少し遅れ気味だったし」

「そっか」



狩沢の言葉を聞いては笑うと、黙り込んで様子を眺めている臨也と静雄に問い掛けた



「そう言う訳だから私は絵里華ちゃん達と行くけど、二人はどうする?」

「いや、どうするも何も…」

「先約なんだろ?」



の問いに対し、臨也と静雄は揃って気まずそうな様子で戸惑う

そんな二人の様子には苦笑すると、にこりと笑って二人を見上げた



「折角だもん、二人も一緒に来てくれたら嬉しいんだけどな」



可愛らしくそんなお願いをされては、断る訳にはいかない



「まぁがそう言うなら行くしかないよね。静ちゃんは来ないらしいから置いて行こうか」



臨也がの左手を掴んでワゴンへ歩き出すと、静雄は慌てての横に並び右手を握った



「待てよ、誰が行かないっつった?」

「行かないとは言ってないけど行くとも言ってないでしょ?て言うか来なくて良いから」

「はいはい、二人とも喧嘩しないの〜」



相変わらずギスギスした空気の中、は二人に両手を取られたままワゴンへと向かう



「いやぁ…流石だわ……」



そんな三人の後ろ姿を眺めながら、狩沢は感心したように呟いてその後を追った



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




「いやぁ…、カオスっすねー……」



運転席に渡草、助手席に門田

真ん中の列の左から順に静雄、、臨也

そして後部座席に狩沢と遊馬崎が座っている

遊馬崎は目の前に広がる人間模様を眺めながらぽつりと呟いた



「(何か磁場が狂って悪魔でも召還出来そうな雰囲気だよねー)」

「(アザゼルさん位なら出てくるかもしれないっすね)」



狩沢と遊馬崎がひそひそとそんな事を話す中、門田もバックミラー越しに広がる不思議な光景にため息をついた



「まさかこのメンツで車に乗る日が来るとはな…」

「頼むから車の中で暴れたりしないでくれよ…」



門田の言葉に渡草も同意するように呟いて、冷や汗をかきながら運転する

静雄はやや不機嫌そうに窓の外を眺め、臨也はいつもと変わらない表情でやはり窓の外を眺めていたが、ふいに前を向き門田に尋ねた



「ところでドタチン、これ何処に向かってるの?」

「露西亜寿司だ。予約もしておいたんだがお前達の分は頼んでなかったから連絡しないとな…」

「あぁ、それならいいよ。俺が連絡しておくからさ」



門田が思い出したように携帯を取り出すのを制し、臨也は素早くメールを打ち始めた

その横で、は静雄に声を掛ける



「そう言えば静雄くん最近幽くんに会った?」

「いや、たまにメールは来るけど最近顔は見てないな…」

「私ね、この前幽くんの撮影現場をたまたま見かけたんだけど、目が合ったら会釈してくれたよ」

「そうか、どうだった?」

「うん、元気そうだったよ。相変わらず凄い数の女の子に囲まれてた」



がくすくすと笑いながら静雄にその時の様子を伝えると、狩沢が後ろからに声を掛けた



って羽島幽平のファンだっけ?」

「そうだね、幽くん主演の映画は結構見てるし好きだよ」

「じゃぁあれ見た?カーミラ才蔵のやつ」

「見た見た。アクションシーンとかも自分でやっちゃうんだもん、幽くんって運動神経良いんだねぇ」

「あぁ、昔からアイツは結構何でもソツ無くこなす方だったからな」



静雄はそう答えながら、携帯を取り出してに尋ねた



「確か今日は休みって言ったと思うし、呼ぶか?」

「ぇ、いいの?折角のお休みだし悪くないかな」

「多分大丈夫だろ。一応メールしてみるわ」

「えへへ、有難う」



嬉しそうに笑いながら御礼を言うの表情に、静雄もまた満足そうに微笑んだ



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




そんなこんなで露西亜寿司近くの駐車場へと到着した7名は、それぞれワゴンから降りて露西亜寿司まで歩く



「お寿司〜お寿司〜」

「こら、はしゃぐと転ぶぞ」

「門田くん、大人の女に向かってその注意は無いと思うよ」

「いや、お前の場合落ち着き無いからな」

「そう言う事言うとパパって呼ぶよ?」

「解った。悪かったから止めてくれ…」



先頭を歩くの背中から門田が声を掛けると、はくるりと振り返って悪戯っぽく笑う

門田がため息交じりに首を横に振ると、その後ろから遊馬崎が自分を指差しながら話に割り込んで来た



「門田さんがパパなら俺の事をお兄ちゃんって呼んでくれても良いんすよ?」

「ぇー、遊馬崎くんは何か親戚のお兄さんって感じだよね」

「何で若干遠いんすか…」

「じゃぁじゃぁ、私がのお姉さんね」

「うん、絵里華ちゃんはお姉ちゃんでも良いかも」



が狩沢を見ながらそう答えると、狩沢と遊馬崎がを挟むように近寄りこっそりと話し掛けた



「それならあの二人はどうっすか?」

「臨也くんと静雄くん?」

「どっちが本命?どっちが運命?」



野次馬根性丸出しで尋ねる二人に、は笑って答える



「どっちも好きだけどどっちかなんて選べないなぁ」

「ぇ〜、そんなのつまんないよー」

「まぁでも三角関係って言うのはヒロインの気持ちが曖昧だからこそ成り立つものっすよ」

「そりゃそうだけどさぁ」



遊馬崎の持論に不服そうに答え、狩沢は頬を膨らませる

そんなやり取りをしている内に、一行は露西亜寿司の前に到着した



「イラッシャーイ」



扉を開けるとサイモンを始め数名の従業員が揃って一行を出迎える



「あれ?お客さんいないの?」

「あぁ、さっき連絡するついでに貸し切りにしといたんだ」

「わざわざ!?」



一人も客が入って居ない事にが首を傾げると、臨也が後ろからひょっこりと現れてしれっと言う



「だってその方がくつろげるでしょ?」

「それはそうだけど…」

「たった7人で貸し切りなんて良く出来たな」

「いや、ついでだから新羅とか運び屋とかも呼んどいた」



呆れながら尋ねる門田に、臨也は説明するとちらりと静雄の方を見て不敵に笑った



「やっぱり年に一度の記念日は豪華に行かないとねぇ」

「…汚ぇぞノミ蟲」

「いやいや…、豪華過ぎて逆に困るよ……」

「まぁまぁ遠慮しないで兎に角座ろうよ。は主役だから此処の席ね。そんで俺が此処で、静ちゃんはまぁトイレの前にでも座ったら?」

「…い〜ざぁ〜やぁぁああぁぁあ!!!!!」

「喧嘩ハ駄目ダヨー」

「まーた始まった…」

も大変っすねぇ」

「あはは、もう慣れたよ……」



再び争い始めた臨也と静雄と、その間に入るサイモン

そんな三人を見守りながら肩を落とすと、その両脇でに同情する狩沢と遊馬崎

渡草と門田はカウンターに腰掛けその様子を傍観している

するとガラリと店の扉が開き、新羅とセルティが入って来た



「やぁちゃん、遅れてごめんよ」

「"プレゼント選びに少し迷ってしまって…"」

「ぁ、新羅くん、セルティさん」

「はは、あの二人は相変わらずだねぇ」

「うん、本当仲良いよね」

「"それは違うと思うぞ…"」



後ろで暴れる二人を見ながら笑うにセルティが手を振りながらPDAを見せる



何飲む〜?」

「ぁ、私ビールで!!」

「じゃぁ僕はウーロン茶を貰おうかな。セルティも一応グラスだけは持っとこうね」

「"あぁ"」

「渡草さんとドタチンもビールで良い?」

「阿呆か、俺は車だっつーの」



それぞれに飲み物が配られ始めたところで、更に店の扉が開き幽が入って来た



「よぉ幽、悪かったな急に呼び出して」

「ううん、他でもないさんの誕生日だからね。呼んで貰えて良かった」



幽に気付いた静雄が臨也との争いを止めて幽に声を掛けると、幽は静雄に応えた後でに近寄りぺこりと頭を下げた



「ご無沙汰してます」

「本当久しぶり。折角の休みなのにごめんね、私が会いたいって静雄くんに我が侭言っちゃって…」

「いえ、さんには兄さんも僕もお世話になってますから」



が申し訳なさそうに両手を合わせると、幽は首を左右に振って笑った



「そんじゃそろそろ始めるか。全員グラス持ったか?」



ワイワイと騒がしくなってきた辺りで、門田が周りを見渡し声を掛けると、全員がそれに応じる



「良し、それじゃぁ改めて…、」

「「、ハッピーバースデー!!かんぱ〜い!!!」」

「「「「「「かんぱ〜い!!!!」」」」」」

「おい!!俺の台詞を奪うな!!」



門田が咳払いを一つしている間に、仮沢と遊馬崎が門田の乾杯コールを奪いハイテンションで叫ぶ

すると他のメンバーも次々とそれに続きグラスを上げた



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



次々と運ばれてくる寿司にそれぞれ舌鼓を打ちながら歓談していると、

ふとの元に新羅とセルティが二人で大きな袋を持ってやって来た



ちゃんおめでとう、これ僕とセルティからのプレゼントだよ」

「"気に入って貰えるか解らないが…"」



そう言って新羅とセルティが渡してくれた大きな包みを受け取りながら、は大きく首を振る



「ううん!!来てくれただけでも嬉しいのにプレゼントまでなんて…、開けて良い?」



は二人に尋ね、二人が同時に頷いた後で包みを解く



「可愛い…!!」



大きな包みの中身は犬のぬいぐるみで、は袋から取り出してぎゅっと抱き締めた



「私とゆまっちからはこれ!!」

「共同製作っす!!」



新羅とセルティに続き横から現れた仮沢と遊馬崎が、の前に取り出したのは手の平サイズの小さな箱

が受け取りそれを開くと、中には赤い石のついたシルバーのピアスが入っていた



「うゎ、凄い…。これ絵里華ちゃんと遊馬崎くんが作ったの!?」



驚いた顔で二人を見つめるに、仮沢と遊馬崎は胸を張って答える



「そうよ〜。シルバーの土台は私が加工してぇ」

「自分は誕生石のガーネットを削ったっす!!」

「流石本職…!!ありがと〜!!」

「そいつら本当は手作りフィギュアにしようとしてたの必死で止めたんだぞ」



感激するの後ろから、渡草が呆れ声を出す



「で、これが俺から」

「こっちは俺からだ」



振り返ったに渡草と門田がそれぞれ紙袋を差し出す

が早速開けてみると、渡草は入浴剤セット、門田は文庫本セットだった



「悪いな。中々思い付かなくて迷ってたら姉貴がとりあえず入浴剤なら外さないっつーからそんなのになったんだ」

「いやいや、充分嬉しいよ!!だってこれ結構高いやつだよね?」

「まぁちょっとだけな」



頭をかきながら少し照れたように笑う渡草の横から、遊馬崎が覗き込んで門田に尋ねる



「門田さんのその本は何っすか?」

「あぁ、これは俺のお勧めだ。ハードカバーは重いから文庫本にしておいた」

「門田くんのチョイスはいつも本当にツボなんだよね、有難う〜!!」



門田がそう説明するとは10冊程の文庫本をパラパラと眺めながら門田に笑い掛けた



「おめでとう御座います、これ…僕からです。」



いつの間にか近くに居た幽がの前にすっと大きめの箱を差し出す



「ありがと!!開けちゃって良いのかな?」

「はい、もちろんです。急だったので大した物は用意出来なかったんですけど…」



少し申し訳なさそうにそう伝える幽の言葉に首をブンブンと振りながら、は箱を開ける

そこには綺麗なワイングラスが二つ並んでいた



「うゎ、綺麗…」

「これからも兄さんの事、宜しくお願いします」



グラスに目を奪われるに、幽はぺこりと頭を下げる



「ふぅん…、ツヴィーゼルのリッチグラスか…。流石超人気俳優だね、お兄さんと違って気が利く」



幽の背後から顔を出した臨也はの手にしている箱を覗いて感心したように呟く



「臨也くんのはお菓子だったよね?キルフェボンと村上開新堂の!!」

「やだなぁ、俺がそんな安っぽい物だけで済ませるハズ無いでしょ?」

「あれ、違うの?」

「チョコやクッキーはあくまでもオマケ。本命はこっちだから」



きょとんとした顔のの前に、臨也は小さな箱を取り出す

そして臨也自らその包みを解くと、箱の中身は可愛らしいデザインの指輪だった



「はい、手出して?」

「ぇ、でも指輪って…」

「大丈夫。これは婚約指輪とかじゃないし、ちゃんと右手に付けるからさ」

「そうなの?それなら良いのかな…」



が臨也の説明を聞き右手を差し出すと、臨也はその右手の薬指に指輪をはめた



「左手に付けるのはもっと高いのを買ってあげるから楽しみにしててね」



プロポーズ紛いな台詞をさらりと口にする臨也に、は思わず顔を赤くする

そんな二人を後ろで囃し立てていた狩沢達だったが、ふと傍にいる静雄に問い掛けた



「ねぇねぇ、あんな事言ってるけど良いのー?」

「お前も用意してるんだろう?渡して来いよ」

「あぁ…」



狩沢の問いに微妙そうな顔をしている静雄の肩を門田が叩くと、静雄は静かに頷いてに近付いた







幽と話していたに後ろから声を掛けると、が振り返り首を傾げた



「ぁ、静雄くん。何々?」

「…これ……」



静雄がそう言って小さめの紙袋を手渡すと、はパッと顔を明るくした



「高いもんじゃねぇけど…」

「そんなの全然気にならないよ、静雄くんが選んでくれただけでもすっごい嬉しいもん」



は本当に嬉しそうに笑いながら、紙袋の中から中身を取り出す



「ぁ、可愛い…!!」



可愛らしい赤色に箱に入っていたのはシンプルなネックレス

が手に取って眺めていると、幽が静雄の隣に移動して来てこっそりと耳打ちした



「ねぇ、さんに付けてあげたら?」

「っ…!?」

「折原さんに負けちゃってもいいの?」

「…そうだよな……、サンキュ幽」



幽のそんな一言でようやく決心がついたのか、静雄は幽にお礼を言うとふっと笑った



、それ付けてやるから後ろ向け」

「いいの?じゃぁお願いします」



は静雄の申し出を素直に受けるとネックレスを手渡し、くるりと背を向け髪の毛を掻き上げる

静雄は少々慣れない手付きでネックレスを両手に持ちの首に付けた



「ん、付いたぞ」

「えへへ、似合うかな?」



再度静雄の方へ振り返って恥ずかしそうに笑うの首元に、シンプルなネックレスがキラリと光る

静雄はそれを満足そうに眺めると、の頬にそっと触れて微笑んだ



「あぁ、良く似合ってる」

「ぁ、ありがと…」



が静雄の予想外の行動に思い掛けず照れると、それまで門田達と話していた臨也がつかつかと寄って来た



「ちょっと静ちゃんの分際で何気安くに触ってる訳?」

「あぁ?何か文句あんのかノミ蟲!!」



挑発する臨也と、すかさず臨戦態勢に入る静雄



「ホント懲りないですね…」



幽がぽつりと呟いてを見ると、は貰ったプレゼントをそれぞれ眺めながらとっても幸せそうな顔を浮かべて立ち上がった



「本当に有難う…、皆大好き!!!!」



そんなの声を聞き、各々好きに騒いでいたメンバーは一瞬動きを止めた後に笑顔で声を揃えた







「「「「「「「「「「、誕生日おめでとう!!!!」」」」」」」」」」













-END-



'12/01/19



本日誕生日を迎えた蓮ちゃんに捧げます

Happy Birthday(>ω<*)